アーノンクール『べートーヴェン交響曲第5番『運命』、第4番』。「なんと言うベートーヴェンだろう。なんと力強いこと!」齢85才のこの熱いラストの過激。
Ludwig van Beethoven: Symphony No. 5 in C minor Op. 67/Nikolaus Harnoncourt
過日、出勤途上の車中、ラジオから流れていた耳たこほどの名曲中の名曲、ベートーヴェンの交響曲第5番・運命には驚かされた。「なんと言うベートーヴェンだろう。なんと力強いこと!」。明快で力強く、熱さあふれる情感の推進力。コンサート用に洗練された響きで、重厚、古典的ロマンの風趣もつ聴き慣れた従来の?ベートーヴェンの「交響曲第5番・運命」とはおおいにちがうのだった。古楽器オーケストラ「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」の演奏ということもあるかもしれないが。
指揮者ニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt 1929年12月 - 2016年3月)のラストレコーディング。齢85才のこの熱い過激。
【『この曲はフランス革命、もしくはその後の圧政の影響を受けて書かれたもので、圧政からの解放を描いたものだ。私が知る限り、べ一トーヴェンが政治的な意昧合いを持つ作品を書いたのはこの曲だけだ。
今確信を持って言えるのは、この交響曲の第1楽章は、「独裁者の圧政に苦しむ人々の姿」を描いているということだ。全員が怖れを感じ、正義は行なわれず、人々は理由もなく投獄されている。革命前夜の雰囲気と言ってもいい。有名な第1楽章の開始部分は、鎖に繋がれた人々が自由になろうともがき苦しむ姿だ。第1楽章全体がこの抑圧されたエネルギーに満たされている。勝利のエネルギーではなくて、革命を起こそうとする力を生み出そうとするエネルギーだ。その中で、第2主題は暗闇に差し込む一条の光のようだ。どうやったら我々は白由になるのか、と問いかけるかのような。・・・』】(アーノンクール)
今確信を持って言えるのは、この交響曲の第1楽章は、「独裁者の圧政に苦しむ人々の姿」を描いているということだ。全員が怖れを感じ、正義は行なわれず、人々は理由もなく投獄されている。革命前夜の雰囲気と言ってもいい。有名な第1楽章の開始部分は、鎖に繋がれた人々が自由になろうともがき苦しむ姿だ。第1楽章全体がこの抑圧されたエネルギーに満たされている。勝利のエネルギーではなくて、革命を起こそうとする力を生み出そうとするエネルギーだ。その中で、第2主題は暗闇に差し込む一条の光のようだ。どうやったら我々は白由になるのか、と問いかけるかのような。・・・』】(アーノンクール)
こうした情熱的な解釈、(というものの、音楽は音であり、言葉・意味・概念ではないのだけれど)それが呼び寄せる圧倒的な演奏。スゴイ・・・。
「完璧な演奏などあり得ない」【結局のところ、全ての真に偉大な芸術作品は、謎を残すものなのだ。・・・】(アーノンクール)
【◎交讐曲第5番の真の意味 この演嚢会の準備をしているときに、2つのことを発見した。一つは、交響曲第5番がミサ曲ハ長調と同時に作曲されたこと。べ一トーヴェンが荒々しい気分の時には交響曲第5番を書き、平安で敬虔な気持ちになった時には隣の机でミサ曲ハ長調を書いたのだ。だから、この2曲を組み合わせて一夜の演奏会をするのは意味があるというわけだ。 ただ、交響曲第5番の真の意昧に気がついたのは今日のリハーサルのわずか1週間前のことだ。演奏の助けになると思うので敢えて話しておきたい。 この曲はフランス革命、もしくはその後の圧政の影響を受けて書かれたもので、圧政からの解放を描いたものだ。私が知る限り、べ一トーヴェンが政治的な意昧合いを持つ作品を書いたのはこの曲だけだ。今確信を持って言えるのは、この交響曲の第1楽章は、「独裁者の圧政に苦しむ人々の姿」を描いているということだ。全員が怖れを感じ、正義は行なわれず、人々は理由もなく投獄されている。革命前夜の雰囲気と言ってもいい。有名な第1楽章の開始部分は、鎖に繋がれた人々が自由になろうともがき苦しむ姿だ。第1楽章全体がこの抑圧されたエネルギーに満たされている。勝利のエネルギーではなくて、革命を起こそうとする力を生み出そうとするエネルギーだ。その中で、第2主題は暗闇に差し込む一条の光のようだ。どうやったら我々は白由になるのか、と問いかけるかのような。 第2楽章は「祈り」を意味している。ここグラーツで私が子供の頃、ちょうどナチスに支配されていた時期だが、教会に行くことは大っぴらには許されていなかった。だから教会に行くということは、人々が「神様、この圧政から我々を解放してください」と祈る行為だったのだ。圧政の中で祈るのはごく自然な行為だ。希望を生み出す方法でもある。べートーヴェンもこの楽章で同じことを示している。この楽章は変奏曲だが、変奏の中には神の存在や祈りを信じない人々のことを描写しているところもある。神の助けなしに、自分たちで銃を取って圧政を打ち倒すのだ、と言わんぱかりの! 第3楽章の開始部分の静寂は、まさに自分たちは常に独鐵者が張り巡らしたスパイによって見張られているかのような雰囲気だ。人々は「待てよ…まだその時ではない…」と言っているかのようだ。そして主題がその静寂を打ち破るが、それはまさに「臆病者よ、立ち上がれ」と鼓舞しているかのようだ。「エグモント」と酷似している。トリオでは学生たちが学生歌を歌う。オーストリアのダンス音楽を思わせる。理想主義にそまった学生たちの革命。でも圧政を打ち負かすような効果は上げられない。若者はきちんと組織だって行動できない。そして入念に作られた再現部は、まさに自由を獲得するその過程が描きだされているかのようだ。 第4楽章は自由と勝利についての音楽だ。この楽章で初めて登場するトロンボーン、ピッコロ、コントラファゴットは何を意味するのか?これらは野外音楽で使われる楽器だ。「我々は勝利したのだ!」と政治的に扇動しているかのようだ。べ一トーヴェンがこの種の扇動的な野外番楽を書いたのはこの第4楽章だけだ。バルコニーから身を乗り出して群衆の前に立ち、大きな演説をぷつかのような音楽だ。パリでこの交響曲が初演された時、フランス人たちは「皇帝陛下、万歳!」と叫んだという。勝ち誇った、勝利の音楽だ。この楽章の最初のコードはオーケストラ全体が4メートル宙に浮くくらいの爆発的なパワーがなくてはいけない。第3楽章の終わりから第4楽章の最初のコードに向けて、1Oメートルもある巨大なワニが口を大きく開けるかのような途方もないクレッシェンドが必要だ。その直後に登場するピッコロ(横型か縦型かはわからないが)とコントラファゴットは、この大きな響きの中から突き抜けて聴こえてこなければならないのだ。 (2007年6月、グラーツでのリハーサルでのコメントおよびインタビューより***)】(アルバム冊子より
収録曲
01. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅰ.Adagio-Allegro vivace
02. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅱ.Adagio
03. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅲ.Allegro vivace-Trio.Un poco meno allegro
04. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅳ.Allegro ma non troppo
05. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅰ.Allegro con brio
06. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅱ.Andante con moto
07. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅲ.Allegro-attacca
08. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅳ.Allegro
02. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅱ.Adagio
03. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅲ.Allegro vivace-Trio.Un poco meno allegro
04. 交響曲 第4番 変ロ長調 作品60 Ⅳ.Allegro ma non troppo
05. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅰ.Allegro con brio
06. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅱ.Andante con moto
07. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅲ.Allegro-attacca
08. 交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」 Ⅳ.Allegro