yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ポール・ヴァレリーPaul Valéry(1871 - 1945)『テスト氏』

    Du Pré & Elgar Cello Concerto - Part 1

                     ジャクリーヌ・デュ・プレ
           

      Du Pré & Elgar Cello Concerto - Part 2
      


イメージ 1実力の差があるとはいえ何が起こるか判らないのもサッカー、先ずは北京へ向けてのU22サッカー日本代表の勝利を祝うことにしよう。とま、記事書き始めたものの、サッカー試合日のつねとして、時間がなくなってしまった。3月3日からJリーグが開幕となる。シーズンに入ると試合のある土、日は、これからサッカーテレビ観戦に時間がとられてブログ綴るのに難儀することだろう。ということで、昨日に引き続き音楽ブログは休憩。書物からの抜書きで、頭の体操、マッサージをしよう。今日の抜書きはポール・ヴァレリーPaul Valéry(1871 - 1945)の『テスト氏』からである。わたし達の世代では、<自我>意識に苛まれ、その格闘に手をのばすのは小林秀雄であり、彼を通じてのアルチュール・ランボーであり、中原中也太宰治であったり、そしてポール・ヴァレリーであったりした。はたして、戦うべき相手、その輪郭のはっきりせぬ「青春の終焉」とやらの今日ただいまの時代、どれほど彼が読まれているのだろうか。自我のそのありようはどうなのだろう。

≪自分の感覚が、自分を、現実から、存在から、引き離していると感じているような人々があるものだ。そういう人達の感覚は、彼等の他の感覚に伝染する。僕の見るものが、僕を盲目にする、聞くものが聾にする。知っていることが無智にする。知っている限り、知っているおかげで、何にも知らない。僕の目の前にあるこの燈飾(イルミナシオン)は一つの帯だ、或いは闇をかくし或いは光をかくし、それ以上・・・それ以上何を。ここで奇怪な倒錯の輪が鎖される。認識は存在の上を動く雲のようだ。輝かしい世界は眼翳のようだ、不透明体のようだ。目に入るものすべてを除け。≫

≪人間は自分に関する<真理>を会得する事は出来ない。この<真理>が形成されたと感ずるとき、(それは印象に過ぎぬのだが)同時にもうひとつの見馴れぬ自己を拵え上げ……これを信頼し――これを妬み……(これこそ内心の政治の絶頂だ)明瞭な「自我」と混濁した「自我」、正当な「自我」と有罪の「自我」、これらの間には、昔ながらの憎悪と昔ながらの和解、昔ながらの断念と昔ながらの哀願がある。

≪お前はお前が「自我」と呼ぶさまざまな秘密にみちている。お前はお前の持つ未知のものの声である。≫

≪私は世界の方を向いていない。私は壁に顔を向けている。壁の表面のことは何ひとつ私の知らないものはない。≫

≪君の思想を軽蔑したまえ、思想は君にはお構いなく行きつ戻りつするものだ。≫

≪認識とは、存在自体にとっては、どうやら異邦人だ。――存在は己を知らぬ、・・・≫

≪神は遠くない。それはもっとも近くにあるものだ。≫

≪「――無限なんて、君、もうたいしたものじゃない――あれは文字も上のものだ。宇宙は紙の上にしか存在しない。いかなる感覚もそれを示さない。それを話すことはできるが、それだけなのだ。」・・・君はすべての科学の最初の仮説、どの学者にも必要な観念はなんだか知っているかい。それは世界はよく知られていない、ということだ。≫

≪俺は官能を歌おう。さあれ、官能は真理であり、官能は純粋である。何となれば、現実的なるものは何らの意義を持たず、他のものを目がけはしない。回想も、解釈も、推理も、目がけはしない。然るに官能と現在感覚と直接事物と、これこそは深奥である。官能にとっては錯覚はない。それらは各自己の言うところを言うのであって、もしそれらが相矛盾するとしても、もし手が眼を否定しても、それらは各自己の営みと領域に於いて真実なのだ。もし君が描かれた対象を見て、それを捉えんとして絵画の平面を見出すのみとしても、罪は画家にあって、視覚にはない。罪は君自身にあるのだ。何となれば、君は一世界から他の世界を結論して、一対象を信じたのだから。≫(「未完の物語」より)

        筑摩書房ヴァレリー全集2『テスト氏』(小林秀雄中村光夫、佐藤正彰訳より)



アンブロワズ=ポール=トゥサン=ジュール・ヴァレリー(Ambroise-Paul-Toussaint-Jules Valéry, 1871 - 1945)は、フランスの作家、詩人、小説家、評論家。
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