yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

遊星的望郷に神の声聴くピエール・アンリの「ヨハネ黙示録」

イメージ 1

音源=Pierre Henry : Apocalypse de Jean
http://jp.youtube.com/watch?v=8fFevSI0xx4

今世紀最大の哲学思想の画期であるハイデガーが存在の哲学でのたもうた如く、現存在としての人間は生へと投企されたがゆえに既にもはや死に至る可能存在である。死は我々を絶えず脅かす可能性であり、引き返しはありえぬ絶対の可能性である。私たちは死へと向かうべくこの世に生誕の命を得た。当たり前といえば当たり前である。だが今なお重要な現代のメメントモリではある。既に神を殺戮してしまった現代の人間にとっては絶対の可能性である死に自らを根拠付ける以外に世界を開示することが出来ない。現存在の存在仕方、もはや既に生きてしまっているその投企実存に意味を照射した生の哲学思想は現在もなお捨ておくことの出来ない重要さを保持しているのは論を待たない。それにしても宇宙の中へ行き着くあてのない孤独の彷徨をする悲哀のこの遊星を神はもはや既に離れているやも知れぬ。にもかかわらずなお神への渇望を私たちはなんとしよう。『第七の封印を解き給ひたれば、凡そ半時のあいだ天静かなりき。』(ヨハネ黙示録8・1)このキリスト教思想・聖書の中で特異な位置を持つ新約聖書最終書《新約聖書の最後の一書。九五年ごろローマの迫害下にある小アジアの諸教会のキリスト教徒に激励と警告を与えるために書かれた文書。この世の終末と最後の審判、キリストの再臨と神の国の到来、信仰者の勝利など、預言的内容が象徴的表現で描かれている。》(YHOO辞書・大辞林より)の「ヨハネ黙示録」を題材に、そのおどろおどろしいアルマゲドンの終末思想に満ちた世界をピエール・アンリが1968年フランス文化省の委嘱でパリ現代音楽祭にてライヴパフォーマンスした3枚組みのアルバムがこれである。この厳しく激しい呪いと予言・啓示の言葉に満ちた世界をコンクレートミュージックに見事に構成作品化した記念碑的ライヴパフォーマンスである。音楽以外で「ヨハネ黙示録」を題材にした、映画とりわけスエーデンの名監督イングマール・ベルイマンの『第七の封印』などに見るように人の生、死が神との厳しい関係のなかで問われるキリスト教圏の宗教世界の凄みは、仏教渡来以降でもなお汎神的世界圏であり或る意味で無宗教を宗教とするおおかたの日本人には異質でさえある。唯一神に引き回されきびしく冥い強迫の歴史の積層がこのような芸術の世界創造の背後にあればこその強いパッションの存在が際立つ。ピエール・アンリ(1927~)42才一番脂の乗りきった時の作品である。長大な一種宗教曲でもあるこの『Apokalypse des Johannes』(ヨハネ黙示録)は全曲に貫く電子加工処理された具体音のみで創り上げられた作品として、感嘆のほかない。長年の音への探求、経験がものさせたともいえる音響世界のセンシティヴでドラマチックな音楽性は、「ヨハネ黙示録」という異形な題材でもあるとはいえ、オリヴィエ・メシアン、ナディア・ブーランジェという当代一流の多くの逸材を世に送り出した優れた音楽家に師事したという経歴が示す確かな感性の秀逸さに裏づけを持つとしても、伝統的調性のみならず無調をさえも、それら音楽世界からの創造的逸脱により現代産業技術世界が世に開示した音の存在性にかくもエネルギッシュに投企し出遭う音ことごとくと共に携え生きている音楽家としての栄誉は正に彼ピエール・アンリにふさわしい。