yuki-midorinomoriの日記

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津軽三味線の太棹が弾く「さわり」に、こころざわめく『弾・津軽じょんがら節』(1976)

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上妻宏光 "津軽じょんがら節"

             

≪日本音楽を勉強するためには、仏教音楽や能、さらに雅楽などを勉強するのもいいと思いますけれども、ほんとうに日本人の心をつかもうという場合には、やはり三味線音楽を勉強するのが一番手っ取り早い方法ではないかと思います。三味線という楽器は、長い棹を持っていて、そのどこを押さえてもかまわないわけですから、どんな音階でも演奏することができる大変便利なものと考えられがちですが、実際に三味線を少しでも稽古した人はすぐに気がつくでしょうが、三味線で演奏できる領域、しかもそれが効果的であるという場合は限られた範囲の中にしかないのです。したがって、かりに三味線を使って西洋音楽のものを演奏しましても、それは決してすばらしい音楽にはなりません。むしろ西洋音楽のいいところも生かせず、使いにくい無理な演奏方法を強いることになります。この点が日本音楽の中でも、ほかのジャンル、たとえば雅楽を現代に生かすとか、あるいはお琴、尺八などを生かすことよりも、もっと決定的に困難なことだろうと思います。≫(以下、小泉文夫『日本の音楽』より)このように、西洋音階の曲を演奏あるいは共演している三味線のなにか調子っぱずれで、尻こそばゆい感じをもたれた方が多いのではと思われる。しかしこういった構造的頑迷さのうちにこそ、三味線音楽が長年に亘って培ってきたすぐれた伝統的な音楽的要素の練成の根源があるのであってみれば、それを掬い上げることの出来ない現代化はこれを疑念なしとしない。≪実は現代化が普通には困難だと考えられるような微妙なリズムや音色などを巧みにつかった発声法、そうして旋律の細やかな装飾法といったところにこそ、日本人の今までの努力があったわけです。こう考えてきますと、むしろ現代化が容易であるために、どんどんと形が変わってしまうような音楽よりも、安直な現代化が困難だから、かえって伝統的な要素が正確に生かされてきたような、三味線音楽の方がこれからはむしろ発展性があるという見方も可能なわけです。≫宮城道雄の現代邦楽、箏の美しさの反面、なんとはなしの違和感を持つのもこうしたことからくるのだろう。日本の美意識、それもファジーきわまる三味線の音色に漁どられた美的感性にこそ邦楽のこれからの生きるすべがあるのだろう。ところで邦楽器を使った「ノベンバーステップス」の成功でその名を世界に知らしめることとなった武満徹は、日本人の音への美意識を、自然へと、音と化す演奏主体の、また鑑賞主体の自己否定、すなわち無化と、<さわり>に象徴して語っている。≪三味線とか、琵琶とかの楽器に「さわり」をつける部分があるのです。三味線の上駒の上の方にさわりの山とさわりの谷というのを作って、わざわざ普通の音をきたないビーンという騒音の効果を生むように、さわりの部分をとると言いますが、そういうことがなされています。東洋音楽のおおくは、そのような騒音をいずれも大変大事にしていますが、それが「さわり」というような言葉で、美学的に捉えられているのは日本だけではないか、と思います。・・・・三味線においてもそうです。西洋人の耳にとっては、ビーンというきたない音、物に触れて出る音、どちらかというと我々の日常の生活の周囲にある雑音と同じような効果を持たせている。そういうものから義太夫の発声――声を殺してつぶしたような、西洋の音楽という見地から考えればきたない不愉快な音を、私たちは美しいとしたわけです。そして「さわり」という言葉が、いつのまにか美しい、楽しいという意味に転化してきたわけです。そこに僕は大変興味深い日本音楽の独特な性格があるのではないかと思うのです。≫(武満徹『樹の鏡、草原の鏡』)まさしく、今回のアルバム『弾・津軽じょんがら節』(1976)こそがその典型でもある。撥がリズミックでかつ豪快に撃ち叩き、弦が、ういーいいいん、ぎゅーううんとしなり、空気が揺らぎざわめく音。激しく撃ち叩かれるバチがはじき出す弦の音、返しでならされる音、リズミックでありエモーショナルな撥弦邦楽器・三弦のその響きには、ことのほか心揺さぶられる思いするのは、もちろん私だけではないだろう。躍動し、華麗ななか、また哀調をおびつつも厳しくハジかれる津軽三味線の太棹が、ことのほか今にあっても何か騒がすものがあるのは、吉田兄弟などの現代的なパフォーマンスのその人気が物語ってもいるだろう。まさしく「ビーン」「ビーン」と激しく耳を撃つその津軽三味線の太棹が弾く「さわり」に、こころざわめき、とらわれ心は放心することだろう。放心の訪れこそ真正である。津軽三味線、沢田勝秋、菅原公夫、高橋脩次郎、尺八、福田次郎による、1.津軽じょんがら節、2.津軽よされ節、3.津軽三下がり、4.津軽おはら節、5.弥三郎節、6.津軽あいや節、7.津軽甚句~十三の砂山~黒石よされ節~りんご節(成田雲竹作曲)。


YOUTUBEで聴く津軽三味線
[JV] Yoshida Brothers Live Performance - Kodoh (Beat)
http://www.youtube.com/watch?v=jjHg8GrSGMA






西潟昭子、関連マイブログ――
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/38353378.html