yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

『此の道や行く人なしに秋の暮』(芭蕉)に秋の侘びを思い『秋風秋雨人を愁殺す』の響きに秋を愁う。

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

    (上)菱田春草『落葉』六曲一双屏風、右隻 1909(明治42)年
     (中上)菱田春草作『落葉』六曲一双屏風、左隻 1909(明治42)年

         岡倉天心は第3回文展でのこの作品を 
         「情趣巧致固より場中第一、近頃の名品と感し申候」と絶賛した。

      (中下)入江泰吉『霧たちこめる大仏殿への小径』(1965-69)
       (下)入江泰吉『蒼古の色濃き玄賓庵への道』山辺の道(1972-74)



さて秋といえば、やはり紅葉に始まり、寒さおくる秋風は葉を落とし、其処ここの木々の風情にこころ寂しさをつのらせる。生尽きて舞い落ちる木の葉といい、肌に染み入る秋風は、古来より、侘びしく、もの哀しく、愁いをともなうものとされてきたようである。この時節になるとやはり、まず口をついて出てくる芭蕉の句がある。名句で誰しもが諳んじるだろう『此の道や行く人なしに秋の暮』である。さてどうブログを綴ったものかと思案、芭蕉と秋に関してネットをあれこれ覗いていて行き当たったのが、この句が漢詩を下敷きに作られたものだという指摘であった。芭蕉の名句を鑑賞する程度で、いわゆる<論>や<説>などの類は紐解いたことはなく、知らないでいたのも当然の不勉強ゆえである。その記事によると芭蕉の『人声や此道かへる秋のくれ』と『此の道や行人なしに秋の暮』は、唐の詩人耿湋(こうい)(734~?)の詩「秋日」をもとに作られたといわれているとの事であった。


       「秋日」   
             耿湋(こうい)

        返 照 入 閭 巷,

        憂 來 誰 共 語。

        古 道 少 人 行,

        秋 風 動 禾 黍。


        返照閭巷(りょこう=村里)に入り

        憂え来るも誰と共にか語らん

        道人の行くこと少(まれ)に

        秋風禾黍(かしょ=コーリャン)を動かす


このように漢詩を詠むと下敷き云々より、人の心というものは普遍だなと思った次第である。秋と憂い(愁い)という感情の対は自然の意匠の趣が人にもたらす遍く変わりない様相なのだなとおもった。自然のうつろいと人の心のうつろい。まぎれもなく人は自然と交感し共に生きる。また秋風と秋愁といえば中国の女性革命家、秋瑾(しゅうきん、1875-1907)が<捕まり、取り調べで、自供をせまられた時、語ることなく、この七字を書いてその答えとしたという>絶命詞が有名である。「秋雨秋風愁殺人!」(或いは「秋風秋雨愁殺人!」)これは武田泰淳の小説のタイトルとしても使われている『秋風秋雨人を愁殺す・・・』。学生時代これを知り、その小説とは関係なく、いたく感心した覚えがある。ことばの響きがいいのだった。もとの漢詩は次のようなものである。


       「古歌」
               漢・無名氏

       秋 風 蕭 蕭 愁 殺 人,

       出 亦 愁,

       入 亦 愁。 

       座 中 何 人,

       誰 不 懷 憂。

       令 我 白 頭。

       胡 地 多 飆 風,

       樹 木 何 修 修。

       離 家 日 趨 遠,

       衣 帶 日 趨 緩。

       心 思 不 能 言,

       腸 中 車 輪 轉。



       秋風 蕭蕭(しょうしょう)として  人を愁殺し,

       出づるも 亦た 愁へ,

       入るも 亦た 愁ふ。

       座中  何人(なんぴと)か,

       誰(たれ)か  憂ひを 懷(いだ)かざる。

       我をして  白頭ならしむ。

       胡地に  飆風(へうふう) 多し,

       樹木  何ぞ 修修たる。

       家を離れ  日びに 遠きに 趨(おもむ)き,

       衣帶  日びに 緩(ゆる)きに 趨く。

       心思  言ふ 能(あた)はず,

       腸中  車輪 轉ず。


それにしても「蕭(しょう)」を使って「蕭颯(しょうさつ)」という字句があり、その意味が「ものさびしく秋風が吹くさま」であることを知った。いいことばを勉強させてもらった。また「蕭(しょう)」を「しめやか」と訓むのも知った。ありがたいことである。




松尾 芭蕉寛永21年(1644年) - 元禄7年10月12日(1694年11月28日))
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%B0%BE%E8%8A%AD%E8%95%89
 
秋瑾(しゅうきん、1875-1907)中国の女性革命家。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%8B%E7%91%BE