yuki-midorinomoriの日記

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戦後美術としては史上最高値の約7,280万ドル(約88億円)で落札。マーク・ロスコ『ホワイト・センター』

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                 マーク・ロスコ『ホワイト・センター』

       ≪立派な作品ほど静謐で強い。
             その静けさの底に、沸々たる精神が封じこまれているからである≫
                                   (宇治山哲平

Feldman: "Rothko Chapel"

             

マーク・ロスコMark Rothko
イメージ 2先日新聞記事にて、世界的なカネ余り、ようするにバブル現象を示すものとして、≪ニューヨークで開いたオークションで現代美術が相次ぎ高値で落札された。≫との記事が目に留まった。
以前マイブログに登場したマーク・ロスコ Mark Rothkoの抽象画『ホワイト・センター』(1950?)が≪戦後美術としては史上最高値の約7,280万ドル(約88億円)で落札された。
・・・出品者(米・富豪デビッド・ロックフェラー)・・が1960年に約1万ドルで購入。約半世紀で価値が七千倍以上に跳ね上がった。・・売却収入を慈善事業に寄付する意向。≫とあった。
美術品に対する芸術価値と金銭的評価云々はいつものことながら諸説あり、ここではおいておくとして、それにしても茫洋として壁のように色が塗るこめられているだけの絵がしょうじき、これだけの価値・金銭的評価を得るとはと言った感じである。
この稿のため少しの知識を仕入れるために東野芳明著の「現代美術(ポロック以後)」(美術出版社・1965)を引っ張り出してきてロスコの項に目をざっと通してみた。
そこで、いささかの皮肉をこめて著者は次のように述べている。もちろん作品にではなく画家と社会との関係に対してであることは言うまでもないが、≪「芸術家に対する社会の悪意は受け入れがたい。しかし、この敵意そのものが本当の開放のためのテコとして作用しうる。安泰と共同社会(コミュニティー)の虚偽の感覚から開放されてこそ、芸術家はその造形の銀行通帳を放棄しうる。ちょうど、かれがほかの安泰の形式を放棄したように。共同社会と安泰の感覚はともに日常性によりかかっている。それから自由になるとき超越的な経験が可能になる」1947年にこう書いたロスコの作品が、現在では巨額の値で求められ、社会の壁に神秘化されてかけられているのは、奇妙な光景だ。≫(同書「マーク・ロスコ<あるいは 神のいない祭壇画>」)
まさしく上記新聞記事にある≪60年に約1万ドル≫といった値がついた頃のことだと思われる。いまや泉下にある著者も≪七千倍以上≫の値に競りあがった事を知ったなら作者の思想・苦悩(芸術価値)と美術絵画の金銭をひっくるめた価値評価・受容のギャップの深刻と皮肉に頭を悩ます事だろう。
≪いかにも神秘めかした祭壇画のような≫展示がなされている(作家自身もそのような展示のされ方を望んでいたらしいけれど)ロスコの(思想・苦悩)の静謐の真理(社会との敵意ある関係からの超越=「しばしば悲劇的な力に関係している人間の情念」・ロスコ)を莫大な金銭で得ることの奇妙な構図。
それはともかく、あの独特の茫洋とした静謐の壁面画へのフォルムの到達まえに、すでにして1943年にロスコは≪「われわれは複雑な思考の単純な表現を好む。巨大な形態を好む。なぜなれば、それこそが明白さの衝撃力(インパクト)をもっているからだ」≫(同上)とそのフォルムにいたる方向性を指し示していたのだそうである。
≪かれの画面は、まるでひっかくと血がしたたるよイメージ 3うである。暗冥な情念が、すさまじい危機の意識が、一見静謐な色面の奥にふかぶかと包まれ、かくされて横たわっている。「五十年代のロスコの多くの作品はまるでたっぷりと荷電されているように感じられる。われわれは、雲が空をおおいつくしたときの、あの、嵐の前の重苦しいと時間の世界に面と向かっているような気がする
・・・かれの作品は激しい不安を解消するよりも内にひめている。一見静かで瞑想的な画面は、その下に騒乱と情熱を隠しているだけなのだ」(ピーター・セルツ)。あるいは女流批評家ドン・アシュトンはロスコの絵をギリシャ劇になぞらえ「宿命と威風堂々とした韻律と絶望的に圧迫された叫び」があると書く。
たしかにこの長方形のフォルムには「エジプトのピラミッドのなかの死者の住家へのドア」(ピーター・セルツ)のようであり、みる者はその奥にある死の脅威を感じながら、美しい色彩の雲を不安げに楽しむのである。≫(同上)                  
ロスコをまえに静謐のうちに背後から立ち上る想念に思いをいたすのは確かなことイメージ 4のようである。
さて最後に先のオークションでポップアートの旗手アンディ・ウォーホルAndy Warholの63年の作品「グリーン・カー・クラッシュ」がかれの作品としても最高の約7,170万ドル(約86億円)で落札されたそうである。
そのウォーホルは≪彼は自身について聞かれた際、「僕を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」と、徹底して「芸術家の内面」などといったものを排除し、無表情で、透明で、表面的であろうとし続けた。≫(WIKIPEDIA)ということである。


アンディ・ウォーホル「グリーン・カー・クラッシュ」

参考――
The Rothko Chapel