『VIET‐NAM Poesies et Chants』。かつて漢字(文化)圏の国であったヴェトナムの優雅な古典詩と歌(朗誦)。
私たち団塊の世代にとってヴェトナムは、長きにわたる戦争と疲弊した国土からの脱出をこころみた難民といったことどもが連想のごとく思い出される。ヴェトナムは漢字(文化)圏の国であったのは地理的にみても、中国との絶えざる政治経済上での角逐、交流のうちにあったことからも言われれば肯けることだ。ということもあって文化的な同質性が指摘されている。事実どれ程にそうなのかどうかは分からないけれど、当のヴェトナムを知る人は、生活上での違和はあまり感じないとの印象を語る。漢字文化のなせるところなのだろう。この漢字(文化)圏をさして東アジア(文化)世界と称してこれからの日本の位置取りをすべきであるとはよく言われることだ。昔日の「大東亜共栄圏」のよからぬイメージが尾を引いて東アジア世界(共同体)論には及び腰のように思えるけれど、漢字を軸として東アジアの歴史が動いてきた事実認識は重要なことのように思える。と、こんなことを言うつもりで、きょうのCD『VIET‐NAM Poesies et Chants』を取り上げたわけではない。たんなる、民族音楽での興味から購入したまでのこと。ヴェトナムの時代をさかのぼる古典詩と歌(朗誦)が日本での琴に相当する楽器の伴奏でパフォーマンスされたもの。優雅なものだ。朗誦が中国語でなされれば中国の音楽と言ってもとおる雰囲気の音楽だ。違和なく心地よく朗誦に浸ることが出来る。輸入洋盤なのでヴェトナム語による古典詩の朗誦、声は完全に楽器音に等しい。詩の内容を味わっているよりヴェトナム語の優雅、そのフィーリングを鑑賞しているようなものだけれど、それでよし。