室生犀星「凍えたる魚」
RACHMANINOFF: Vocalise, Op. 34, No. 14; STOKOWSKI Anna Moffo
「風が立ち、浪が騒ぎ、無限のまへに腕を振る。」これは中原中也の<盲目の秋>よりの詩句。このリフレーンが奇妙に頭にこびりついてはなれない。「無限のまへに腕を振る」・・・。徒手空拳と言ったことといくぶんかは意味合いにおいて関係あるのだろうか。存在することへの抗いでもあるのだろうか。「無限のまへに腕を振る」。さてところで図書館で借りてきた室生犀星の詩集に印象強くした詩があった。鬱屈した心の襞が絵画的描写にすぐれて鮮明だ。
「凍えたる魚」 魚はたえまなく水の深きにあり その青き泳ぎもみじめに 落ち葉のかげにひそみつつ 凍れるごとく魚はうごかず 水は硝子のごとく澄みてはながれ 冬の日のかげさし入れど わがこころ むなしくたたずみ かすかなる魚をうかがふ 室生犀星