yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

小沢 昭一『日本の放浪芸・大会』(1974)CD3枚組み。道ゆく境界流浪の民のいまや滅び消えなんとする、遊び、芸、性のノスタルジア以上の愉しくも猥雑なサマの残像が浮かんでくる。

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        teihenn geino sha (幽)底辺芸能社 旅の夜風

        

「地上にはもともと道はない、歩く人が多くなると、それが道になる・・・」(魯迅

イメージ 2最近というより、もうすでにチンドン屋はおろか大道芸人を、まさしく大<道>、辻などで見なくなって久しい。(何かの大掛かりなイヴェントでは見かけたりはするけれど。)これはいつ頃からのことなのだろう。月並みなことだけれど町々の都市化とともに、といった事ではあるのだろう。ということは共同体としての人間関係、社会が崩壊してゆくことと同意であるといえるのだろう。そうした大道芸を幼ごころに記憶にとどめている世代はどれぐらいまでのことなのだろうか。大きな祭りでの蛇女や覗きカラクリ、それにバナナの叩き売りガマの油売りなど実際に大道で演じ?ているのを私たち世代は目の当たりにしているけれども、ひょっとしてノスタルジックにそれらを思い出せる最後の世代ではなかろうかとも思うのだけれど。ということで、今日は中央図書館での予約貸し出しで借り受けた小沢 昭一(おざわ しょういち、1929-)の『日本の放浪芸・大会』(1974)CD3枚組みを取り上げよう。まえまえから、この小沢昭一の「日本の放浪芸」(昭和46年度日本レコード大賞企画賞受賞)や「又日本の放浪芸」(昭和48年度芸術選奨受賞)の存在を知ってはいたが、とてもじゃないがセットものゆえの高価で手の出せるシロモノではないので聴く機会をもてなかったが、図書館での予約検索で、これらにはそのボリュームで到底及びもつかないけれど、今日の『日本の放浪芸・大会』を借りることが出来たのでさっそく聴いてみた。もちろん生活のための生業に付随した大道、放浪芸ゆえで、その洗練の度合いなどは求めるべくもないのだけれど。道からハズレ、演芸として<場所>に定住定着することによる、何ほどかの<労働と性>といった生きることの猥雑なパワーが殺がれ骨抜きにされ、その代償に、さそうした大道演芸が芸能として洗練され、今さまざまな芸を芸能として歴史に残すことになったのだ。生活力、その猥雑なまでのパワーと引き換えの洗練を得たということなのだけれど。それらは<性>にまつわる、いわゆる下ネタが笑のネタに多いことでよく分かる。畢竟、男と女は<寝ること>なのだなぞとゲスな、それで万事分かったように嘯くヤカラとは無縁でいたいと私は思っているけれど(世の中そんなに単純か?とはいイメージ 3え、その<性>という普遍関係概念の全人類史を貫く重要性は云うまでもないことだけれど)。もっとも、金(カネ)と性には人格は無い(金融業の方がおられたらヒンシュクを買いそうだ)、とつねづね思ってはいるが・・・。だからこそ人を狂わせもするんだろうけれど。さて脱線した。ところで放浪とは何からの放浪なのか。云うまでもなく定まった共同体からの離脱、無縁、放浪だ。共同体間を媒介、交換を成り立たせそれを生業にする、こうした無縁遊行の民をあざやかに歴史に登場させ日本史を流動、活写して画期をなした歴史家、網野善彦が今思い出される。そもそもが交換・媒介なくして共同体は成り立たないし、動態しないのだから、あたり前といえばあたり前だ。歴史の裏、離脱し境界に生きる無縁遊行の民の生きる糧、その芸・放浪芸、大道芸。その猥雑ないかがわしささえすべて抱え込むパワーをこのCDで聴くことだろう。そこには、いまや滅び消えなんとする、遊び、芸、性のノスタルジア以上の、愉しくも猥雑なサマの残像が浮かんでくる。芸の成り立ち、根っこへの問いかけ、消失への焦りにも似た熱き思いの結晶したCD3枚。以下解説書で、目にとまったことばを引用してこの稿を擱くこととしよう。(右写真、飴屋)


<芸を支える共同体は急速に崩壊しつつある。都市化の波が、すべてをノッペラとした無内容なものに変えてきたからだ。>(尾崎秀樹

<大道芸・・・の大道の大は、大きいという意味ではない。道の功績を称える美称である。人と人とがゆきあい、人と人が通じあい、あたためあい、憩い、楽しみ、生活する道のことなのである。自動車に乗って通るだけなら、死の道でしかない。>(郡司正勝


小沢昭一が招いた「日本の放浪芸大会」(3CD)
*漂泊の芸能人たちが大集合! 放浪芸探索十年の成果 を問うた、伝説のステージをCDで再現!! 
1974年6月27日~7月1日、東京紀伊国屋ホール実況録音(1975年オリジナル発売)  
構成・司会:小沢昭一

壱枚目:三曲万歳(尾張)<愛知県知多市>浅井博治・花井稔治・柿田代二=御殿万歳、関取千両幟、あいならえ、伊六万歳<愛知県津島市>加藤竹三郎=なかなかづくし、うそ八百、阿呆陀羅経、飴屋流し唄、辻占売り、なみだ経
弐枚目:演歌<東京>桜井敏雄=カチューシャの唄、スカラーソング、ハイカラソング、いやじゃありませんか、のんき節、千葉心中、廓日記、金色夜叉、飴屋<茨城県石下町>=飴屋流し唄、仁義、飴屋踊り
参枚目:浪花節大阪府東大阪市>広沢瓢右衛門・東家みさ子(三味線)=雪月花三人娘