西村朗合唱作品集『まぼろしの薔薇』。「伝統的な調性感、和声感に基づく合唱曲」(西村 朗・同梱解説より)。ロマンティシズムにあふれ、美しい合唱作品。
さほど興味のある分野でない、ふだん進んで聴くということのない合唱曲作品集。実験的というわけではないけれど、ネオロマンティストとしてのその音響造形への傑出は、尾高賞受賞のその回数をみても衆目の認めるところと思われる、その西村 朗(にしむら あきら、1953 - )の合唱曲(組曲)作品集『まぼろしの薔薇』。ネット図書館で借り受けた。
全曲が詩人大手 拓次(おおて たくじ、1887 - 1934)の詩による合唱組曲のよし。
全曲が詩人大手 拓次(おおて たくじ、1887 - 1934)の詩による合唱組曲のよし。
【この大手拓次三部作は、いわゆるアマチュア・コーラス(といってもその演奏技量は、今日きわめて高いが)を対象として作曲した、私の仕事のほとんどである。伝統的な調性感、和声感に基づく合唱曲は、これ以外に小品が2~3曲あるにすぎない。そういう意味では、私の作品としてはこれらは特殊なものであり、数が限られていることもあって、今も愛着を感じている。・・・】(西村 朗・同梱解説より)
斯くあるように、まったく保守的な美、響きに彩られた声の作品集だ。ちょいと気恥ずかしくなるような詩句とロマンティシズムにあふれた合唱作品集といえる。
ロマンティスト・西村 朗の貌がスナオなまでに響いてくる。≪合唱組曲「まぼろしの薔薇」の孤独の薔薇≫!。
ロマンティスト・西村 朗の貌がスナオなまでに響いてくる。≪合唱組曲「まぼろしの薔薇」の孤独の薔薇≫!。
アルバムの劈頭曲「まぼろしの薔薇」を語るなか作曲者・西村 朗は≪曲頭、ピアノに“白薔薇の動機”が現れる。冒頭の低音Hは、シの音であり、それは“死”に結びつき、この三部作全体が、いわばタナトスのベクトルを持つエロティシズム、熱狂、そして浄化とかかわっていることを暗示している。この動機は三部作を通じて重要で、この右手の十六分音符の音形はさまざまに変形されて、随所に用いられている。そして、三部作最後の「秘密の花」の第四曲「ゆびⅠ」で、リズムを変えながらも、ほぼ原形で再び現れる。≫と解説、記している。
ロマンティシズムにあふれ、美しい合唱作品であるけれど、なんだかムズムズしてくる気恥ずかしさが拭い去れない。わが感性に馴染まない詩句のせいなのだろう。
「まぼろしの薔薇」(大手 拓次)
まよなかにひらくわたしの白ばらよ、
あはあはとしたみどりのおびのしろばらよ、
どこからともなくにほうてくる
おまへのかなしいながしめのわびしさ、
ああ、
夜ごと夜ごとまぼろしに咲くわたしのしろばらの花。
あはあはとしたみどりのおびのしろばらよ、
どこからともなくにほうてくる
おまへのかなしいながしめのわびしさ、
ああ、
夜ごと夜ごとまぼろしに咲くわたしのしろばらの花。
はるはきたけれど、
わたしはさびしい。
わたしはさびしい。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
ウ~ン、どうやら私にはこのような詩的感受性に乏しいようだ。
西村朗、関連投稿記事――
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指揮
前田二生 (MAEDA TSUGIO)
演奏
新東京室内合唱団 (SHIN TOKYO SHITSUNAI GASSODAN)
東京レディース・シンガーズ (TOKYO LADIES SINGERS)
[コーラス(合唱)]: 東京レディース・シンガーズ (TOKYO LADIES SINGERS)
[P ]: 長尾博子 (NAGAO HIROKO)
[P ]: 藤田篤美 (FUJITA ATSUMI)
前田二生 (MAEDA TSUGIO)
演奏
新東京室内合唱団 (SHIN TOKYO SHITSUNAI GASSODAN)
東京レディース・シンガーズ (TOKYO LADIES SINGERS)
[コーラス(合唱)]: 東京レディース・シンガーズ (TOKYO LADIES SINGERS)
[P ]: 長尾博子 (NAGAO HIROKO)
[P ]: 藤田篤美 (FUJITA ATSUMI)
女声合唱:秘密の花から「ゆび II」