yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

三輪眞弘『赤ずきんちゃん伴奏器ほか』。自動機械(コンピュータシステム)がつくりだす整除されない思いがけない出会いの音響。<あそび>の横溢したひさびさの愉楽だった。

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Reverse Simulation Music Part1/2

               
               投稿音源ではありません。


知性によってテクノロジーを生み出した人間が、それによって「公然」とケダモノ化する世界に芸術の息づく場はなく、弱いものは死ねばよいと人々が黙認する世界に芸術表現などありえない。多くの芸術家は無力感とともに誠実であることをあきらめるか、芸術と称した娯楽や商品を提供するかの判断を強いられているのだとぼくは感じる。だからこそ、商品になり得ない何かを勝手につくり続ける多くの「ゲリラ」が存在することは、ぼくらの希望だと考えることはできないだろうか。テクノロジーをはぐくむ最高の価値「有用であること」を嗤い、さげすみ、誇り高い「社会の役立たず」としてお金に還元不可能な意味世界をつくり続け、みんなで共有し、めでること。それが神なき世界でぼくらが人間でい続けるひとつの方法ではないだろうか。


2年近く前だった。≪『作曲家がゆく・西村朗対話集』(春秋社・2007)。黛・武満以降世代の、70年を境とする前衛の退潮(価値相対多元化の転換期)に船出した作曲家たちの苦闘・暗闘の姿、その声を聴く。)≫とタイトルし投稿した書物で、きょうの投稿アルバムの作曲者・三輪 眞弘(みわ まさひろ、1958年 - )なる存在を知ったのは。


【『作曲家がゆく・西村朗対話集』(2007)

対談作曲家:

池辺晋一郎(いけべ しんいちろう、1943年 - )

三輪眞弘(みわ まさひろ、1958年 - )

佐藤聰明(さとうそうめい、1947年‐)

中川俊郎(なかがわとしお、1958年‐)

近藤譲(こんどう じょう、1947年 - )

三枝成彰(さえぐさ しげあき、1942 - )

新実徳英(にいみ とくひで、1947 - )

吉松隆(よしまつ たかし、1953年 - )

北爪道夫(きたづめ みちお、1948年 - )

川島素晴(かわしま もとはる、1972年 - )

野平一郎(のだいらいちろう、1953年‐)

細川俊夫(ほそかわ としお、1955年 - )

西村朗(にしむら あきら、1953年 - )×石田一志(1946‐)

高橋アキ(たかはし あき、1944年 - )】


電子音楽という項目でネット図書館を検索していたら、聞き覚えのある名前が目に留まった。アルバムタイメージ 2イトルは『赤ずきんちゃん伴奏器』。一言で言えばコンピュータプログラム(=アルゴリズム Algorithm)を介しての音楽リアリゼーション。これがひじょうに脳を刺激して斬新だった。この音楽ブログのタイトル『イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽』にまことにふさわしいパフォーマンスもの、<あそび>の横溢したひさびさの愉楽だった。自動機械(コンピュータシステム)がつくりだす整除されない思いがけない出会いの音響。それが意図せざるものとして純な美しさを垣間見せる。いっけんデタラメ、ランダムな音の表情。それゆえにか純朴なひびき・・・。

以下、収録2作品への作曲者のことばを引用して、それらのおおよその曲趣の了解のよすがとしていただこう。



赤ずきんちゃん伴奏器」

赤ずきんちゃん伴奏器は歌手が発する声の昔高、強弱をコンピューターがその場で読みとり、その情報を「赤ずきんちゃん伴奏器」と名付けられたプログラムが処理し、自動演奏ピアノによって伴奏するシステムである。リートという伝統的な歌とピアノによる伴奏を想定したこの作品ではあるが、伴奏部が事前に作曲されているのではなく歌手の声によってリアルタイムで生成=作曲されるところに大きな違いがある。4つの有名なグリム童話
赤ずきん」、「白雪姫」、「狼と7匹の子やぎ」、「ヘンゼルとグレーテル」と、この作品自身についての技術解説文、そしてピッチ検出に使われたVP-70という製品についての音楽雑誌に掲載された新製品紹介のテキストを切り刻みでたらめに並べたものが脈絡もなく語られ、歌われる。曲中で歌われるメ□ディーだけは作曲者の手によって書かれた。



「歌えよ、そしてパチャママに祈れ」

二つの楽章からなる「歌えよ、そしてパチャママに祈れ」は「音響による物語」という発想から生まれた。エンドレステープに録音された約3分間のボリビア民謡が音高分析され、作曲者によるコンピューター・プログラム、「RRH-TRANS」によってさらに、シューベルトの有名なオクテットと同じ編成の8楽器のための楽譜へと変換されたものがこの作品である。曲の演奏に際して、作曲に用いられたエンドレステープはポータブル・カセットテープレコーダー(ラジカセ)によって全曲を通して小さな昔でステージ上で再生される。つまり、もし作曲時と完全に同じタイミングとテンポでテープとアンサンブルの演奏が開始されれば、作曲時のテープと楽譜の関係がそのまま再現されることになるのだが、そのようなシンクロニゼーションは要求されていない。素材となったボリビア民謡は力ー
ニバルで未婚女性の高いファルセットによって歌われるもので、この作品のタイトルもその歌詞から得た、。なお、「パチャママ」は現地の信仰により豊作、大地、過去一未来を司る女神で、各楽章のサブタイトル、「週ぎゆくもの、来るもの..」と「はじめのおわり」はそのイメージから得た作曲者の自由な命名による。






テクノロジー社会の芸術家とは、誇り高き「役立たず」であり、「商品になり得ぬ世界にこそ価値」がある。




三輪眞弘赤ずきんちゃん伴奏器』

1. 赤ずきんちゃん伴奏器~メゾソプラノとコンピューター制作による自動ピアノのための
2. ディテュランブ~テープのための
3. 夢のガラクタ市-前奏曲とリート~ハープとコンピューターのための
4. 歌えよ,そしてパチャママに祈れ-ボリビアの歌に寄せるふたつの物語~クラリネット,ホルン,ファゴット,弦楽五重奏とエンドレステープのための




"Le Tombeau de Freddie / L'Internationale" by Formant Brothers