yuki-midorinomoriの日記

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吉田進『吉田進の世界-演歌・空蝉』(1980)。<空蝉(ウツセミ)>と<演歌>が曲名になっていることから、その意図するところ、背景はおおよそ察することができるだろうか。ただ、生真面目すぎる。

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Susumu Yoshida- Utsu-Semi (2/3)

              

<空蝉(ウツセミ)>と<演歌>が曲名になっていることから、その意図するところ、背景はおおよそ察することができるだろうか。


地中にて長きの生を待ち、地上に解き放たれた短かき僅かの生を精一杯生き切るかのごとき漲るセミの泣き声、せみ時雨。その喧騒の背後にせまる命のはかなさ。無常感。斯く私たちはせみの鳴き声を意味づけ、聴く感性を育んできた。いつ頃からなのか浅学にして知らないが。

そして、民衆の心を唄う演歌。それは、仏教の声明(しょうみょう)その淵源とするとはつとに言われていることで。かく伝統心性の根深さ。このアルバム作品の作曲家・吉田進(1947-)は、卒後、留学先のフランスを音楽活動、生活の場所として、ほとんどをかの国にて過ごしているとのことだけれど、そうしたこともあってか一時帰国のさいの衝撃的とも言える演歌から受けた感動(合理的な西洋音楽の美学の基準では捉えきれない、自由な音の動き。外見を取り繕うことなく、人間の赤裸々な生きざまをぶつける凄まじいエネルギー-吉田進)を自らの体得した西洋音楽書法で昇華、いや頌歌といえるかもしれない思いで作曲したそうだ。もちろん、モロに演歌を象徴するコブシやら音階、メロディが出てくるのではない。あくまでも現代音楽なのだが。

ただ、生真面目すぎるというのが、わたしの偽らざる感想だ。
ほとんど作曲活動を留学先のフランスの地に選びかの地のヒトとなった丹波明(俳優の故丹波哲郎実弟)や、平 義久もいたが・・・。


ところで、このアルバムジャケット裏には、師であるオリヴィエ・メシアンから寄せられた賛辞が掲載されている。参考にはなるだろうか。師のメシアンは鳥の鳴き声を作曲の導きとしたが・・・、生徒であった吉田進は蝉の声を題材とした。


【*1
                                  パリにて 1980年3月30日
親愛なる友ヘ
  1980年3月27日にガヴォーで演奏されたあなたの作品“空蝉(うつせみ)”に対する、私のこよない賞讃の気持ちを、もう一度繰り返してあなたに言わせて下さい。
  年来、私はかくも真実で、かくも新鮮な作品を聴いたことかありません。あなたの作品は、老子の哲学や「無」の概念や象徴的なものを凌駕して、私たちに、真実の沈黙(間)と、日本の自然界の真実の音、そして日本の蝉の声をもたらしてくれました。その上なお、簡潔な手法と、ギロ、弦楽器、オーボエ、タム・タム、カウ・ベルの驚くべき用い方によって、あなたは能の最も美しい場面に比肩しうる劇的な力に到達しているのです。
  あなたに私のこよない讃辞を送り、心の底からあなたを抱擁します。
                                   オリヴィエ・メシアン


*2
  イメージ 2私は吉田進の新らしい作品“演歌”の楽譜を読み、また演奏を聴きました。
  これは本当に素晴しい、そして人を深く感動させる音楽です。吉田進はここで、非常に簡素であると同時に非常に現代的な書法と、よく知られた劇的な情況――棄てられた女――とを用いて、日本の能や歌舞伎、とりわけ文楽の持つ感情と表現主義とを再構成した作品を書くことに成功しました。
  仏教的な沈黙と、作品を縁どるギターの和音の連続、トランペットとトロンボーンとをそのために留保しておいた爆発的な頂点への漸次的な昂揚、それから打ち棄てられた女の泣き声、こうしたすべては人を深く感動させます。これは凝縮されたドラマであり、極めて短かいオペラと申せましょう、そこでは音色への適切な配慮が非常に大きな効果を生み出しています。
  この作品は11人の演奏家(フルート、オーボエ、アルト・サクソフォン、トランペット、トロンボーン、打楽器、ギター、ヴァイオリン、チェロ、ソプラノ独唱、指揮者)を必要としますが、小さなホールでも大きなホールでも同様に充分演奏可能です。
                                   オリヴイエ・メシアン
                      
                             写真:左、吉田進。中、奈良ゆみ。右、矢崎彦太郎


http://www.creaters-index.com/composer/syoshida/5555/ 吉田進の世界(作曲家ホームページ)





吉田進の世界『演歌・空蝉』(1980)

Side-A
演歌Ⅰ(1978)、演歌Ⅱ(1980)<ソプラノと9人の奏者のための>
ENKA1&2 pour Soprano et Neuf Instrumentiestes
Side-B
空蝉(うつせみ)・オーケストラのための
UTSU-SEMI pour Orchestre (1979) 



Susumu Yoshida ~ Enka I ~ Part 1: (1978)
....For small ensemble and soprano....