yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ドビュッシー『歌曲集』。ヴェルレーヌ、ボードレールの詩に付曲した歌曲を(いささか古めかしい慣れ親しんだ)名訳で愉しもう。

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Barbara Hendricks - Ariettes oubliées: C'est l'extase langoureuse

              

             C`EST L`EXTASE LANGOUREUSE
             そは やるせなく蕩(とろ)くる心地

                        野には風
                        息を已(や)む
                          (ファヴァアル)

              そは やるせなく蕩(とろ)くる心地(ここち)
              戀痴(こひし)れし身のつかれ
              微風(そよかぜ)に抱擁(だきし)められし
              森の戦慄(おののき)
              鈍色(にびいろ)に翳(かす)む梢に
              幽(かそ)けくも歌ふ聲なり

              おお爽やかの繊弱(かよわ)き私語(ささやき)
              そは ひそひそと しのびしのびに
              そは 草の そよぎて息も絶え絶えの
              粛(しめ)やかの泣く音に似たり・・・
              せせらぎの水の底なる 礫(さざれいし)の
              にぶき揺鳴(ゆらぎ)と 君は言ふらむ

              おろ睡(ねぶ)る嘆(なげ)きの中に
              すすり哭(な)く この霊魂(たましひ)は
              われらが心と 思(おぼ)さずや 君
              わが心と君が心よ 心より
              この暖かき夕闇に 仄(ほの)かに昇り
              煙と消ゆる つつましき祈りの歌



ドビュッシー(Claude Achille Debussy, 1862 - 1918)の『歌曲集』。ピアノがドビュッシー弾きで知られるベロフ(Michel Béroff, 1950 - )ということもあってネット図書館で借り受けた。

過日ラジオから流れていて、たまたま耳にした以下の


【 「忘れられた歌」              ドビュッシー作曲
                      (16分14秒)
               (ソプラノ)ユリアーネ・バンゼ
               (ピアノ)アンドラーシュ・シフ
               <ECM UCCE-2025> 】


が印象に残ったので借りようとネット図書館を検索したけれど所蔵されておらず、次善としてきょう投稿のアルバムを借りた。

ドビュッシーの付曲した詩がポール・ヴェルレーヌ(Paul Marie Verlaine)(1844 - 1896)であり、シャルル・ボードレール(Charles-Pierre Baudelair、1821 - 1867)であることに興そそられた。今はどうだか知らないが、わが学生時代は小林秀雄ランボーであり、上田敏ヴェルレーヌ(きょうは鈴木訳)であり、鈴木 信太郎ボードレール(書棚を探したけれどどこに紛れ込んだか見当たらなかった)だった。

ということもあり、きょうはそれらの(いささか古めかしい慣れ親しんだ)名訳とともに、それら詩に付曲したドビュッシーの歌曲を貼り付け愉しもう。


まさに時代は、いやヨーロッパはボードレールの「パリの憂愁」。退屈憂愁に揺らいでいた・・・。





Barbara Hendricks - Ariettes oubliées: Il pleure dans mon Coeur


IL PLEURE DANS MON COEUR
都に雨の降るごとく

        都には粛(しめ)やかに雨が降る
        (アルチュール ランボオ

都(みやこ)に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる
心の底ににじみいる
この侘(わび)しさは何ならむ

大地(たいち)に屋根に降りしきる
雨のひびきのしめやかさ
うらさびわたる心には
おお 雨の音 雨の歌

かなしみうれふるこの心
いはれもなくて涙ふる
うらみの思(おもひ)あらばこそ
ゆゑだもあらぬこのなげき

戀も憎(にくみ)もあらずして
いかなるゆゑにわが心
かくも悩(なや)むか知らぬこそ
悩(なや)みのうちのなやみなれ


      「ヴェルレーヌ詩集」鈴木信太郎



Claude Debussy: 5 Poèmes de Baudelaire (1887-9), 2.HARMONIE DU SOIR


HARMONIE DU SOIR
夕べの諧調

今おとずれるこの時に かよわい茎に身を悶え
花々は香炉のように溶けながら
響(ひびき)も薫りも夕べの空にめぐり来る
――憂いは尽きぬこの円舞曲(ワルツ)眩(くるめ)くような舞心地!――

花々は香炉のように溶けながら
ヴィオロンは悩む心か絶え入るように啜(すす)り泣き
――憂いは尽きぬこの円舞曲(ワルツ)眩(くるめ)くような舞心地!――
夕空は悲し美し 大祭壇をたださながら

ヴィオロンは悩む心か絶え入るように啜(すす)り泣き
やさしく慕うこの心 果てしない夜の虚無を憎むから!
――夕空は悲し美し 大祭壇をたださながら
陽は西に 自らの凍る血潮に沈み行き

やさしく慕うこの心 果てしない夜の虚無を憎むから
きららかな過去の名残を集め行く
――陽は西に 自らの凍る血潮に沈み行き
君の想いはわが胸に聖体盒(せいたいごう)に似て冴えながら!


        ボードレール悪の華福永武彦








ドビュッシー『歌曲集』

ポール・ヴェルレーヌ
1. 忘れられたアリエッタ 1.やるせなく夢見る思い ARIETTES OUBLIEES 1. CEST LEXTASE LANGOUREUSE
2. 忘れられたアリエッタ 2.わたしの心に涙がふる ARIETTES OUBLIEES 2. IL PLEURE DANS MON COEUR
3. 忘れられたアリエッタ 3.霧つつむ河の面の木々の影 ARIETTES OUBLIEES 3. L`OMBRE DES ARBRES
4. 忘れられたアリエッタ 4.木馬 ARIETTES OUBLIEES 4. CHEVAUX DE BOIS
5. 忘れられたアリエッタ 5.グリ-ン ARIETTES OUBLIEES 5. GREEN
6. 忘れられたアリエッタ 6.スプリ-ン ARIETTES OUBLIEES 6. SPLEEN
7. 艶なる宴 〜第1集〜 1.声をひそめて FETES GALANTES - 1ER RECUEIL - 1. EN SOURDINE
8. 艶なる宴 〜第1集〜 2.操り人形 FETES GALANTES - 1ER RECUEIL - 2. FANTOCHES
9. 艶なる宴 〜第1集〜 3.月の光 FETES GALANTES - 1ER RECUEIL - 3. CLAIR DE LUNE

シャルル・ボードレール
10. シャルル・ボードレールの5扁の詩 1.バルコニ- CINO POEMES DE CHARLES BAUDELAIRE 1. LE BALCON
11. シャルル・ボードレールの5扁の詩 2.夕暮れの諧調 CINO POEMES DE CHARLES BAUDELAIRE 2. HARMONIE DU SOIR
12. シャルル・ボードレールの5扁の詩 3.噴水 CINO POEMES DE CHARLES BAUDELAIRE 3. LE JET D`EAU
13. シャルル・ボードレールの5扁の詩 4.黙想 CINO POEMES DE CHARLES BAUDELAIRE 4. RECUEILLEMENT
14. シャルル・ボードレールの5扁の詩 5.恋人たちの死 CINO POEMES DE CHARLES BAUDELAIRE 5. LA MORT DES AMANTS