yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ペンデレツキの神の埋葬に迷う敬虔なる人々への祈り

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              Krzysztof Penderecki: Untrenja (2-5) Part 1: The Entombment of Christ (1970)
              http://www.youtube.com/watch?v=pGJr1zCX4HY

圧倒的な宗教世界、ついぞ私たちは姿を見せぬ神との対話にあけくれた辛い歴史を持たぬ。祭り上げた神をめぐっての長きに亘る戦さの歴史を知らぬ。よく言われる一神教の宗教が持つ苛烈さである。「やつは敵だ、やつを殺せ」政治と同様のこの原理をこれら宗教ももつ。輪郭の明瞭な、政治と宗教の歴史を持つ一神教の世界ゆえこのようなドラマチックな観念世界が成り来たったのであろうか。一木一草に神宿る我が汎神の民俗世界ではとてももちえぬ感性世界であろう。土俗共同体と汎神に個が寄りかかり解消するおおむね東アジアと我が日本の歴史とは、個がつねに神と共にあり、あるいは対峙するユーラシアの世界とは異質である。とはいえ、このペンデレツキの優れた宗教曲「ウトレンニャ、キリストの埋葬」は、救い、祈りといった宗教感情を劇的にその音響世界に表出した作品として現代に傑出した名を刻むことだろう。現代同時代に生きる人間としてひとしく背負い込むであろう苦悩、苦難、懊悩の音楽表現としての結実であることは確かなことだ。クラスター奏法の多様、微分音、グリッサンドでの音響空間の流動化、人声の叫び、極限のバス低音とファルセット、新奏法での音響の斬新さ等が衝撃に値する濃密な音楽作品として創り出されたといえるだろう。かくなる凄い宗教曲の存在にはその文化の重層に畏敬するものがある。秋山邦晴記す解説文には、最後の楽章で次の言葉が唱われているとある。
「神よ、わたしはあなたをどのように埋葬したらいいのでしょうか?そしてあなたの行ってしまわれるのに、私はどんな聖歌をお歌いすればいいのでしょうか?」
聴き、そしてしばし敬虔なるべし。