yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ひたすらに音響としてノイズを聴く強い意志ローランド・カイン

イメージ 1

徹底的に電子音のノイズで埋め尽くすこの人工意志のありどころは奈辺にありや。ここまでくるとなにやらSFめいて電子機械そのものがノイズ語で生命の息吹をうたいあげている風情である。ローランド・カインRoland Kayn(1933~)は自らの電子音響作品をサイバネティック・ミュージックCybernetic Musicと称し、No Concrete, No Electronic, No Computer music、No Organized, No Structured, No Aleatorical Musicと定義づけている。つまりは電子音楽のみならず、従来の音楽上の規定さえもことごとく当てはまらぬといっているのであろう。この意気や壮なるものといえよう。確かにこのローランド・カインなる人物、20年近くも音盤から遠ざかっている今浦島の現代音楽ファンである私の狭い情報知識の中でも際立って知ることの少なかった作曲家である。衝動買いというのもなくはないが、身銭きって高価な音盤を購入するのだからある程度判断とする知識等があってのことであるのがふつうだがこのローランド・カインの3枚組みのアルバムは何の知識も持たないまま、内容が電子音楽というただそれだけの理由で大枚はたいて購入したはずである。ここに取り上げたものは74年の出版らしく、いずれにせよ輸入盤ゆえそれ以降の購入であったのだろう。彼がどれほどの評価をなされているのか、マイナーなのかメジャーなのか今もって私にはそうした情報、知識がない。ネットで覗く限りこのアルバム以降相当数の音盤が出されているようなので評価は高いのであろう。それまでたぶんフリーランスであらゆる国を渡り歩いての研鑽という経歴ゆえなにさほどの情報が入ってこなかったのか、従来の音楽に対する自身の上記のような構え方が正当な評価を遠ざけた要因なのかもしれない。もちろんそれらは単なる勝手なシロウトの憶測でしかないのだけれど。しかし今回ブログのため聞き返してみると案外興味を持って聞くことができ楽しむことが出来た。ひょっとしてローランド・カインのサイバネティック・ミュージックなるコンセプトは時代が早かったのかもしれない。もちろんノイズを音楽作品の中に取り入れることはべつだんあたらしいことでもないが、情けないことにノイズミュージックなる分野がそれとしていまや存立しているとは最近知った次第である。だからそうした動きとパラレルに多分ローランド・カインはいまや多くの音盤・作品を出すほどに至っているのだろう。それはともかく従来言うところの音楽上での作品として形作るという明確な作品形成の意志ではなく奏でるサイバネティック・人工頭脳にそれをして自らに音響さしているという感じである。やせ細った貧しい電子ピコピコサウンドでないだけに厚みを持った迫力あるノイジーな電子音響作品となっている。時代が来たということだろう。ひたすらノイズを聴く、ここにこのアルバムのまたローランド・カインの意図とするところがあるのだろう。それゆえかここにはミュージックコンクレートのピエール・アンリとは明瞭に違う個性がある。モダンダンスのモーリスベジャールの舞代音楽として初期から多くの作品をものしたミュージックコンクレートの先導者のひとりである彼の音響が志向するのは舞踊が本来持つ情動の戯れ、そうしたさまざまな所作につきまとう表現との帯同であった。そうした所作にかつて経験したことがなかったような世界を開示するのが、戦後産業技術が人間世界に初めてもたらした電子処理サウンドであった。まさにピエール・アンリには音による世界の開け広げのためのパフォーマンスの明確な意思があった。そこには現れ出た世界への新鮮な驚きがあった。いっぽうローランド・カインには、ひたすらに音響としてノイズを聴くという強い意志があったと言えるのではないだろうか。





Roland Kayn 『Simultan』(1977)

Tracklist:
Kybernetisches Projekt Für 1 - 5 Räume
LP1-A. Monostabile 27:58
LP1-B. Invarianten 20:40
LP2-A. Sources Ergodiques Teil 1 20:18
LP2-B. Matrix 22:45
LP3-A. Sources Ergodiques Teil 2 15:12
LP3-B. Logatome 29:07

Credits:
Recorded By - Jaap Vink , Leo Küpper , Roland Kayn
Technician - Jaap Vink , Leo Küpper , Roland Kayn

Notes:
Realized at Instituut voor Sonologie, Utrecht in collaboration with Studio de Recherches et de Structurations Electroniques Auditives, Bruxelles. 3LP Box including booklet with descriptive notes.