yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

政治ロマン主義者・フレデリック・ゼフスキーの「不屈の民・変奏曲」

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             F. RZEWSKI THE PEOPLE UNITED WILL NEVER BE DEFEATED excerpt
             http://www.youtube.com/watch?v=h6-MhlBSBrM

             Rzewski- TPUWNBD (Takahashi):Frederic Rzewski's "The People United              Will Never be Defeated," recorded by Yuji Takahashi in 1978.
             http://www.youtube.com/watch?v=eHRFLwQbQPI&feature=related



           しずかな肩には

           声だけがならぶのでない

           声よりも近く

           敵がならぶのだ

           勇敢な男たちが目指す位置は

           その右でも おそらく

           そのひだりでもない

           無防備の空がついに撓み

           正午の弓となる位置で

           君は呼吸し

           かつ挨拶せよ

           君の位置からの それが

           最もすぐれた姿勢である

                     (石原吉郎サンチョ・パンサの帰郷」より<位置>)
                      http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/39211097.html

この<断念>と<拒絶>の詩人石原吉郎は、1945年から8年の長きにわたりソ連極寒のシベリヤ各地の強制収容所に抑留され、飢えと苛酷な労働に生きながらえスターリン死去による特赦により1953年、自身すでに38歳の時に帰還、幾度もの帰国の望みが絶たれた失意のトラウマゆえか帰還船興安丸に乗り込むや連れ戻されやせぬかとの思いで脱兎の如く一目散に船底に駆け込み、つのる望郷に胸こみ上げ日本の土を踏んだそうである。その苛烈な体験が言語に昇華して厳しく放たれたものである。また厳冬極寒のシベリアに飢えと衰弱のうちに命尽きて逝った死者のスケッチを、残された者に手渡すべく収容所の煤で作った黒絵の具の冥く重いトーンで、その後、死者の鎮魂を画布に救抜昇華せしめた香月泰男の画業もまた、魂を揺さぶり惰眠を撃つ崇高として決して忘れることのできないものである。ところでさてこの社会主義政治ロマン主義者・フレデリック・ゼフスキー FREDERIC RZEWSKIのピアノ作品「不屈の民・変奏曲」は3つの民衆歌の旋律に基づいて36のヴァリエーションで作曲されたピアノ作品とある。多分ゼフスキーが即興演奏グループMusica Electoronica Viva(MEV)の創設メンバーであり、演奏が高橋悠治ということで購入したのだろう。後で思えばタイトルからして内容が推し量られるであろうのに、古典的といってもよい作品にがっかりした記憶がある。演奏は高橋悠治でトータル約60分という長大なソロ作品である。別にこうした作品を否定しはしないけれど、大衆、民衆とくれば必ずといっていいほど<わかりやすさ><親しみやすさ>であるのはどうしたことか?あえて啓蒙する必要があるのだろうか。自由即興演奏のさうんどこんせぷとと、このようなピアノ作品のオーソドキシーとの整合性をどう繕うのだろうか。とはいえこの作品は決して悪くはない、調性とメロディーに精神の均衡を取り戻し落ち着き安らぎたいときには聴くに好い作品ではある。最後に政治主義のロマンとはほど遠い、這いつくばり凍りつく絶対温度地平から発した石原吉郎のことばでこの稿終えることにしよう。

「シベリヤの密林(タイガ)は、つんぼのような静寂のかたまりである。それは同時に、耳を聾するばかりの轟音であるともいえる。その静寂の極限で強制されるもの、その静寂によって容赦なく私たちへ規制されるものは、同じく極限の服従、無言のままの服従である。服従をしいられたものは、あすもまた服従をのぞむ。それが私たちの「平和」である。私たちはやがて、どんなかたちでも私たちの服従が破られることをのぞまなくなる。そのとき私たちのあいだには、見た目にはあきらかに不幸なかたちで、ある種の均衡が回復するのである。」(石原吉郎「失語と沈黙」)

なんと厳しく哀しい極限の「平和」であることか。


香月泰男――http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/_archive/exhibition/kazuki.html