yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

フリーを<やりつくした>Ⅰ.C.P設立者ウイレムブロイカーの置みやげ

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およそ直径33cm、厚さ2㎝の円筒形のケースにレコードが2枚、ICP007と008(http://www.efi.group.shef.ac.uk/labels/icp/icp007.html)である。奇抜といえば奇抜、当たり前といえば当たり前、原型がそうであれば誰もが思いつくイメージではあるが。なかにチョコレート菓子が入っていても不思議でない風情のケースである。THE INSTANT COMPOSERS POOL(I.C.P)。オランダでエリックドルフィーとの共演アルバムで有名なピアニストのミーシャ・メンゲルベルク、ドラムのハン・ベニングらと共にウイレムブロイカーWillem Breukerが1967年に設立した音楽家のための活動団体の名称であり、その自主レーベル名でもある。このウイレムブロイカーはその当時ヨーロッパ・オランダでのフリージャズシーンを、ハンベニンクと共に牽引していた存在であった。そのサックスの力強い演奏はぺーター・ブロッツマンの衝撃をもたらした1968年の「マシーン・ガン」で聴くことが出来る。のちドイツでたちあげられたフリージャズミュージシャンのための活動団体FMPのメンバーたちとの交流がこの頃よりあったということである。しかしウイレムブロイカーは73年にICPを脱退して自らの音楽ポリシーを展開すべく自分のレーベル、「ブハースト」BVHAASTレーベルを立ち上げ1974年ウィレム・ブロイカー・コレクティーフを結成、ジャズだけでなくクラシック、ポピュラー・ミュージック等、ジャンルを超えた演奏活動をおこない、時には、衣装、セットなどを用いたパフォーマンス、オペレッタ、演劇の要素を加えたステージを見せて社会派劇作家ベルトルト・ブレヒト社会主義を信奉する作曲家クルト・ワイルの音楽劇作品に見られるような活動を以後展開している。彼のフリーミュージックへの活動は「普通の音楽は嫌いで、よくわからない音楽が好きだったんだ。みんなが好きな音楽は私には興味が湧かなかった。」というような感性に裏打ちされてのものであったろう。しかしフリージャズ活動は長くはなかった。『66年から70年代中ごろまで全てをやりつくしてしまった。その後、しばらくの間音楽界を見廻しても新しいものが何もなくなってしまった。「お祭りは終わったんだ」と、そういう風に感じたのが70年代半ばから後半だったね。66年から70年にやっていたことが繰り返し、繰り返し起こってしまって、同じことが繰り返されて……、何も面白くなかった。私はそういう音楽は絶対にやりたくなかった。フリー・ミュージックってやつをね。私は繰り返しは嫌いなんだ。過去にやったことをもう1回やるのは大嫌いだね。』とフリージャズから離れていった心のうちを語っている。私にはこの<やりつくした>という割には以後の活動がさほどのものではないように思える。「私の音楽というのは特定の人たち、例えば、子供だけを対象にした音楽というのではなくて、子供も80歳のお年寄りにも通じるような音楽というのを作りたいと思っているんだ。コンサートにはたくさんのレベル、年齢の人がやってくるんだね」「みんなを喜ばせようとは思わないが、音楽を通して人々に語りかけたいと思っている」そうである。少なくとも社会というもののなかに音楽を意味づける立場であればもっともなことである。しかし私は<社会派劇作家ベルトルト・ブレヒト社会主義を信奉する作曲家クルト・ワイル>といった、いっしゅ啓蒙主義的な芸術観が胡散臭く、民謡は民謡だし、演歌は演歌だし、それでいいではないか、琴線に触れる立派なものであると思っている。何も純音楽と融合する必要などどこにあるのかという音楽芸術観からすれば括弧をつけたくなる。水でうすめられた演歌、民謡ほど面白くないものはない。基本的に音階が違うそれらをクラシック畑が作る曲のつまらなさを見ればよくお分かりと思う。和楽器を使ってのクラシック曲に少なからず尻こそばゆく思うのは私だけではないはずである。もちろんすぐれた作品がないとは言わない。ところでこの円筒ケースに収まっている2枚のアルバムの作品基調は概ね彼が語っている、場所で、音楽で、のパフォーマンスの記録なのであろう。
ウイレムブロイカーの、親しみやすいメロディを軸に、見事に崩してゆくインプロヴァイズする力量、奏力は確かに唸らせるものがあり楽しめるアルバムであり、またハンベニンクが絡まるフリージャズの醍醐味も随所で味わうことも出来る興味深いアルバムである。
とはいえ<やりつくした>ウイレムブロイカーのフリージャズからの離別をまことに残念の極みと思いつつ採り上げた次第。
この稿、下記ホームページのウイレムブロイカーインタヴュー記事を多いに参考させていただきました。
http://homepage1.nifty.com/A-ito/VOID2/breuker/breuker_01.html