yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ジャケットデザイン杉浦康平のシュトックハウゼン「作曲スタジオ・ENSEMBLE」

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日本の音響機器メーカーのトリオ株式会社が、ドイツWERGOレーベルの現代音楽シリーズの国内発売に及んだとき、そのジャケットデザインを手掛けたのが杉浦康平であった。したがってこの優れたグラフィックデザイナーのレコードを手に出来たのはたぶん日本の音楽ファンだけだったのではないだろうか。ひょっとしてその優秀さゆえにドイツでもそのまま採用され販売にいたっていたかどうかは詳らかではない。今回シュトックハウゼンの『作曲スタジオ・ENSEMBLE(それぞれ一人の楽器奏者とテープもしくは短波受信機のための)』を採り上げたのは作品を聴くということもあるが、むしろこのジャケットデザインに、当初手にしたときの新鮮な驚きがあったからである。つや消しの朱赤をベースに、タイトル文字とスタジオでの奏者と電子機器の配置図が濃いグレーで印刷され、また銀刷りで電気配線図のようにもみえるスコアーが印刷されている。それらはたぶんシルクスクリーン印刷と思われるインキの厚みと深みが一層の風合いとメリハリの効いたあでやかさを際立たせている。まことにすばらしいデザインである。この杉浦康平(1932年東京生まれ1955年東京芸術大学建築学科卒、グラフィックデザイナー)は「江戸時代などの中世・近代日本の図案や、アジア各地の図像などを研究、それに影響されたグラフィックデザインなどが多い。他に雑誌の表紙デザインなどでも知られ、今まで手がけた雑誌は2000冊以上とされる。」(WIKIPEDIA)また彼は、現代音楽、民族音楽の無類の聞き手としてもつとに知られている人であり、また我が若き日、その言語イメージ喚起力の凄さに虜われもし、知の世界愉楽に熱狂した松岡正剛創刊のオブジェマガジン『遊』との、この優れた才能の持ち主同士が出会い、というより押しかけていったのは編集者としての松岡正剛であったそうであるが、コラボレートしてゆく経緯は情報編集知の歴史的な豊穣展開の画期を覗けるものとして多いに興味そそるものである。下のネットページで両者のその邂逅経緯と素晴らしい言語・グラフィックイメージワールドの一端に触れることが出来るだろう。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0981.html
http://www.isis.ne.jp/cdn/0601.html
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/toc.html
ところで、このWERGO現代音楽シリーズのトリオ盤がすべて彼のジャケットデザインであったはずだが、その作品数がどれぐらいか詳しくは知らない。ともかく興味ある作曲家で、私の所有しているレコードのどれもこれもが感嘆呼ぶほどの見事なデザインであった。そのデザインを身をまとった『作曲スタジオ・ENSEMBLE(それぞれ一人の楽器奏者とテープもしくは短波受信機のための)』(1967)は、「演奏者間の相互反応関係を記号で記すだけ」となる直感音楽のコンセプトを打ち出した時期の「ダルムシュタット現代音楽夏期講座でシュトックハウゼンは<シュトックハウゼン作曲スタジオ>という名前の下に作曲講座を開いたが、参加を許された各国の12人の若い作曲家たちを統率して8月6日から凡そ2週間で《アンサンブル》と名づけられた共同作品をまとめたのである。」(篠原真)
会場はスピーカーによる音の空間移動を最大限発揮させる配置のもとに4時間に亘る演奏が12人の各自の作曲のアンサンブルで行われ、その間「ホール内の適当な場所に椅子やベンチを置いて、演奏の最中聴衆者は歩いたり立ち止まったり・・・気の向くまま自由に行動することが許された」そうである。その4時間の演奏が全体の順序を変えることなく1時間に編集されたのがこのアルバムに収録されているということである。「個人を超えた作曲=演奏への問題提起、グループコンポジションの新しい実験の結果が、ここに記録されている」(レコード帯のコピー)とはいえ、どのような手法であれシュトックハウゼンという強烈な天性の個性が演奏前のチェック段階に介在しているせいか、あるいはそれとして既に了解しているからなのか、シュトックハウゼンの世界である。これはどうしたことか?。こうしタコンセプトの展開以降、彼はますますオカルティックな方向へ逸れていくのである。