yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

スティーヴ・ライヒ反復音楽誕生の記録作品『COME OUT』

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ミニマルミュージック、反復の音楽といえば先ずおおかた筆頭にスティーヴ・ライヒSTEVE REICH(1936)の名があげられよう。そのライヒの反復音楽誕生の記録ともいわれている「COME OUT」(1966)が収録されているということで、このアメリカ・オデッセイレーベルの『ELECTRONIC MUSIC』をレコード店に発注し購入した記憶がかすかにある。
今はどうか知らないけれども店頭で売られていたシュワンというアメリカの、発行レコードカタログ誌で目指すものを拾い出しては店に発注し、数ヶ月待って手にしたものであった。もちろん店独自で仕入れたものを購入することも多々あったにはしろ悠長なものであった。今思えば大阪という地理的制約とあれぐらいの情報量でちょうど良かったのかなと思うこともある。
買いはしなかったけれど、当時でももちろん東京のアール・ヴィヴァンの雑誌掲載の涎の出そうな宣伝目録を目にし羨ましさと、腹立たしさを感じていたものであった。毎日曜日、古本屋とレコード店へ足を運ぶのが休暇のパターンであった。惨めなオタクというところでもあった。カネとヒマが際限なくあるわけではなく<狂>を持たない<常識人>であれば、おのずと年とともにいつしかそうしたことから遠ざかっていったのは凡人ゆえ当然といえば当然であった。馬齢かさね、誰しも先が見えてくると口に出すように<人間ちょぼちょぼ、たいしたことはない>との感ひとしお強くもつ。リタイアし肩書きがなくなれば唯の老いぼれ耄碌爺でしかなくなる。現役の時は肩書きにお互い頭を下げているだけである。あの優れた知性作家・大江健三郎でさえ書庫等の身辺整理をめぐる新聞掲載エッセーで似たような感慨を綴っていたのを目にした。もっとも彼と私とではその実質がぜんぜん違うのは百も承知ではあるが。
それはともかく、最近になってネットを覗くにつれ商品量の凄さと圧倒される情報量にたじろぐばかりである。よくも正常でいられるなと思わないでもない。そんな横道はともかく、時系列としてはうしろに遡上して初期作品を聞くということになるのだが、当の目指すライヒの「COME OUT」を聴いて、この現代音楽の大きな潮流の一つとなるアイデアはどこから来たのだろうという興味が自分なりに了解できたつもりであった。ひとつのシンプルなフレーズが複数台のテープ再生のズレを人為的にもたらし複層ループさせることで生じる、様々な偶然のうちに生成され浮かび上がる多彩な響きの新鮮な面白さ。
こうしたことは、簡易な電子機器の再生機能を音楽シーンへ登場することをもたらした科学技術の発展という現実的背景が大きい要因だと私には思われる。音の記憶ではなく音の<記録>再生。シンプルな反復のなかに記譜不可能なズレの複層がうみだす<不確定>な<複雑性>の世界の開示、このように現代音楽史上でのキーコンセプト、とりわけ偶然性、偶然がもたらす変化様相を一般化して音楽を形成してゆくという領野の歴史的な開示を先駆けたケージの強い革新の意志の画期が背景にあることは言うをまたないだろう。
ケージがもたらしたインパクトの強さは50年代以降のあらゆる芸術動向にどれほどの影響をもたらしたかを軽んじてはいけない。<イカサマ師>呼ばわりもあるようだけれど、それは現代にあっては歴史の誤認、創造の根幹の腐蝕を結果することだろう。プロセス、反復が時間芸術、音楽の根本であるとの了解地平と偶然性・不確定性の出会い、伝統的芸術素材の、とりわけ音楽素材の価値崩壊、平準化が結果した<ミニマル>コンセプトの招来、ここにスティーヴ・ライヒという個性の登場が可能足りえたのだろう。
さてところで今回聴き返して、B面20分に亘る女性作曲家ポーリン・オリヴェロスPAULINE OLIVEROS(1932)の作品「ⅠOF Ⅳ」(1966)が思いのほか面白く良かった。このように聴き返す機会あるまで気づかなかったとは。たぶん若き日の感性での了解を引きずって思い込んでいたのだろう。
スタヂオで無編集、切り張り接合なしのリアルタイムなパフォーマンスのもとで創られたものということである。オルガンキーボードに12台の正弦波発生器をつなぎ、2ラインのアンプとミキサー、エコー装置、2台のステレオテープレコーダーという機器構成でもって、発生された電子音を、増幅し、積み重ね、ループフィードバック作業を何次にも亘って行い音の厚みとダイナミズムを創り出したそうであるが、先のブログで採り上げたローランド・カインのサイバネティック・ノイズ世界に通ずるものがここにはある。
こうした厚みとダイナミズムをもった電子音操作、制作の技術は、65年サンフランシスコ・テープミュージックセンターで開発され、66年トロント大学電子音楽スタヂオで実践制作されたそうである。まったく最後まで飽きさせないほどの見事さである。再度の楽しい巡り会わせに感謝。聴き返してみるものである。
スティーヴ・ライヒおよびミニマルミュージックに関して下記ページをおおいに参考させていただきました。このような情報が瞬時に得られるネットとは凄いものです。感謝します。
http://www.netlaputa.ne.jp/~pass-age/SR/SRTop.html