yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

<音>に神を聞くピエール・アンリの 『MESSA DE LIVERPOOL』

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幾度かこのブログで登場しているピエール・アンリPIERRE HENRYは、今ではネットのショップ情報で覗くと続々とCD音盤が発売されているようで、同慶のいたりと言うところだろうか。80年代以降の作品などをそこに見るにつけ、聴きたくもあるが、事情もあればすべからく出会いというのもその時々の縁でもあり、のちの楽しみとしておこうと思う。
ともあれレコード時代の70年代は、彼のアルバムを輸入盤でこそ手に入れることは出来ても、邦盤で出されていたのかどうか記憶にないほどに我国ではマイナーであった。フランス本国での扱いとは大きな落差であった。ミュージックコンクレートの歴史的な発展に大きく貢献している彼ほどの、たぶん音楽史に残ること必定の作曲家が、現在でもWIKIPEDIA上で彼の項目が見当たらないのはいったいどうしたことなのだろう。
ピエール・アンリの作品はフィリップスから多く出されており、とりわけ全面に模様を刷り込んだ銀ホイールを使っての、煌びやかなジャケットデザインで有名な現代音楽シリーズには彼の作品が多く見られる。私の数少ないそれらの所有するシリーズでも一番多いのはピエール・アンリである。
その当時、なぜか私はといえば<人工性>アーティフィシャルなものに精神は傾いていた。自然美よりも人工美のほうが面白かったのである。反芸術家と称され当時活発に活動していた工藤哲巳(1935~1990)のタイトルは忘れたが、美術雑誌のグラビアでグロテスクなまでのアーティフィシャルなダダ的作品に衝撃をうけたのもそうしたものを受け入れる心性に傾いていたゆえであろう。ロダンもさることながらむしろプランクーシであった。

http://www.mmat.jp/collection/kudo.html
http://www.gallerysugie.com/mtdocs/artlog/archives/000242.html
http://www.gallerysugie.com/mtdocs/artlog/archives/000533.html
http://www.kamakura-g.com/KG-html/exhibitions/hang_03/photo/kudou.JPG
http://www.aomori-museum.jp/ja/aism/vol6/

まさに精神はひ弱な未来派・ダダであった。人工なるものへの捩れた自己投企、具象よりも抽象であった。現実とは唾棄すべき、抽象されるべきもの、抽象観念へ逆転昇華すべきものでしかなかったのだろう。そうした精神にはエレクトロニックノイズの<人工性>アーティフィシャルな美がふさわしかったのだ。現代音楽、フリージャズが我が心の<空虚=うつわ>に降りてきたのはそれ以来ということである。
毎度のことながらそうしたことは兎も角、ここに採り上げたピエールアンリの『MESSA DE LIVERPOOL』(1967)もまこと奇態な現代のミサ曲である。
教会聖堂建立のセレモニーに委嘱されての作品ということらしい。例の如く輸入盤で解説はびっしりとフランス語のみのアルバムゆえ詳細等読解不明である。典礼に則っとての、KYRIE、GLORIA、CREDO、SANCTUS、AGNUS DEI、COMMUNIONと唱えられてのミサ曲となっている。がしかし唱えられている言葉は音の要素に分解され、まるで精神を病んだ人間が意味不明にまで言葉を解体して読誦している風情なのだ。
言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが袋小路に入るように晩年研究にのめりこんだ「言葉遊びの一つで、単語または文の中の文字をいくつか入れ替えることによって全く別の意味にさせる遊びであるアナグラム」のようでもある。神への言葉どころか、神を忘れ言葉遊びに打ち興じている精神を病んだ狂人の姿を思わせる異体さ。そうした狂い病んだ読誦のごとき典礼の流れの背後にもちろんピエール・アンリ独壇場のアコースティック楽器のさまざまな特殊奏法からなる音などの変容操作、もちろんテープによるそれも絡んでパフォーマンスされる。
しかしここに繰り広げられる異体な読誦のボカリーズが却って雑駁で素朴な民の神への渇望のようにも聴こえる。彼がこれほど音としての言葉への音楽的なアタックを見せているのも珍しい。たぶんここにこの作品の目指すところがあったのだろう。人はいつの時代であろうが<音>に神を聞くようである。<鈴>の音であろうがノイズであろうが、そこに神の気配を感じ、神の言葉を音に聞くのであろう。



工藤哲巳(1935~1990)
http://images.google.co.jp/imgres?imgurl=http://www.unac.co.jp/kudo/video_kudo.jpg&imgrefurl=http://www.unac.co.jp/kudo/video_kudo.htm&h=774&w=578&sz=91&hl=ja&start=11&tbnid=IAnqgI_miwDNbM:&tbnh=142&tbnw=106&prev=/images%3Fq%3D%25E5%25B7%25A5%25E8%2597%25A4%25E5%2593%25B2%25E5%25B7%25B3%25E3%2580%2580%25E7%2594%25BB%25E5%2583%258F%26svnum%3D10%26hl%3Dja%26lr%3D%26rls%3DGGLG,GGLG:2005-41,GGLG:ja%26sa%3DN

フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857 - 1913)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB

ソシュールの理論とその基本概念(参考ページ)
http://members.at.infoseek.co.jp/serpent_owl/arch-text/saussure.htm