yuki-midorinomoriの日記

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コンピュータ音楽パイオニアの一人ジャン・クロード・リセの美しく表情豊かなパフォーマンス

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Jean-Claude Risset - "Mutations"

            

ジャン・クロード・リセJEAN CLAUDE RISSET(1938)。アンドレ・ジョリヴェに作曲を学ぶとともに、エコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範)にて数学、物理学をも学び、その後1960年ベル研究所にて、マックス・マシューズ、ジョン・チョウニングらとコンピュータを使っての音響合成などの研究を行い、斯界のパイオニアの一人としても著名。
オルセーにてヨーロッパで最初のデジタル音響合成システムを開発、またピエール・ブーレーズ率いるIRCMへ創設と同時に、コンピューター音楽研究部門の長として請われ就任、直近ではマルセーユのCNRSの研究機関にて同じくコンピュータ音楽の研究を行っているということである。またそれらの業績、作曲活動に対して数多くの賞が与えられている。
このフランスINA・GRMより出されたアルバム、A面一曲目の『MUTATIONS』(1969)は、ベル研で行われたマグネティックテープに編集されたコンピュータによる合成音のパフォーマンスであるが、技術上での時代的限界と言ってよいのかどうか、きわめてシンプルかつセンシティブな合成音響でのリアリゼーションとなっている。2曲目の『DIALOGUES』(1975)は4人のアコースティック楽器とコンピュータ合成によるリアリゼーションされたテープとのパフォーマンス。B面の1曲目『INHARMONIQUE』(1977)
はソプラノとコンピュータ合成音のテープとのパフォーマンス。デジタルシンセサイザーから出されているサウンドがシンプルであっても、アコースティックな音とデジタルサウンドの違和感の無い自然な移行を技術的に探求しての成果かもしれないが、一音一音が極めて楽音的な響きを持っており、表情豊かで膨らみを持った美しさを持つコンピュータ合成音となっている。
喩えて言えば余韻を持つ<鐘>のような膨らみを感じさせるふくよかなサウンドをイメージして頂いたらいいかとも思う。これがたぶんこのジャン・クロード・リセと他のコンピュータ音楽との意外に大きな違いと指摘できるのかもしれない。いわゆるやせ細った<ピコピコ・ポコポコ>と喩えられるコンピュータサウンドの貧弱さはここには無い。
とりわけ、4曲目のニュートン死後250年をむかえてのラジオフランス委嘱による『MOMENTS NEWTONIENS』は4つの弦とピアノ、2本のトローンボンという少し大がかりな編成とコンピュータ合成音とのパフォーマンスで、しかしこちらは7人編成のアコースティックな楽音が大きくダイナミックに前面に出されるなかに、コンピュータ合成音がまるで宇宙を高速で飛び来たり、去ってゆく彗星のごとくにさみだれる音響空間である。しかし先の収録曲などに聴けるように、騒雑なノイズではなく控えめで楽音的にエレガントである。