yuki-midorinomoriの日記

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クシシュトフ・ペンデレツキの典礼宗教音楽の傑作『聖ルカ伝による主イエス・キリストの受難と死』(1966)

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                神よ、私の神よ、私のほうを見てください。

                なぜ私を見捨てられたのですか。

                私の神よ、私は日々呼びかけます。

                でもあなたは聞いてくださらないでしょう。

                私の言葉に耳を傾けてください、主よ、

                私の叫びをわかってください。

WARSAW BOYS CHOIR - K. Penderecki - Passion and Death of Our Lord Jesus Christ According to St. Luke

           

さて今回もポーランドである。50年代後半より異常な集中で傑作群を次々と発表し世界にその名をとどろかしたクシシュトフ・ペンデレツキ Krzysztof Penderecki(1933)。そのペンデレツキが典礼宗教音楽の傑作『聖ルカ伝による主イエス・キリストの受難と死』を作曲したのは1966年であった。30歳の作品である。
総演奏時間80分の大作。レコードでは当然2枚組みとなっている。この初演時のメンバーによるハルモニア・ムンディ盤は、ドイツレコード賞、エディソン賞、イタリア大賞の三賞を受賞している名演盤ということである。
つとに知られた俗にいうペンデレツキ・クラスターの騒音的音色とダイナミックかつ劇的なオーケストレーション、そこに聴く崇高さと悲劇性、人声の異様なまでの特殊な器楽的唱法の使用がいっそう劇的緊迫の度を加速する。
≪この作品は、西ドイツ・ケルン市の近郊ヴェストファーレン州のミュンスター大寺院創立700年記念祝典のために、ケルンの西ドイツ放送局から委嘱作曲された。・・・・1966年同寺院大聖堂で盛大に初演され、満員の聴衆は深い感動で圧倒された。・・・・当時の批評は、この社会主義国家に属する一人の若い実験的な作曲家が、現代音楽と典礼的精神とのあいだにこの重要な、そして偉大な架け橋を実現したことに対しての驚きと賞賛に溢れていた≫(秋山邦晴)ということである。斯く最大級の賞賛に迎えられた戦後の教会音楽の傑作である。
とうぜん人はここにナチス・ドイツポーランドに対するとりわけユダヤ人に対するアウシュヴィッツ収容所の歴史的汚名、蛮行に作品形成の精神的背景を見ることだろう。受難と死への祈りと哀歌。ドイツの放送局からの委嘱とはいえ寺院によるともいえよう、蹂躙された側のポーランド人作曲家への作曲委嘱である。
ポーランド・ワルソーゲットー(ドイツがポーランドに侵攻し、併合した後、ワルシャワ居住のユダヤ人を強制的にそこに住むことを強要したもの。)
<1939年、ナチス・ドイツポーランドが降伏したことで、ワルシャワナチス・ドイツの占領下におかれた。市内居住のユダヤ人はゲットー(ユダヤ人居住区)へ集められ、出入り禁止で、ダビデの星をつけさせられ、1942年の移送と1943年の親衛隊少将ユルゲン・シュトロープによるゲットー掃討でトレブリンカやアウシュビッツ等のユダヤ強制収容所に移送されるまで、そこに住んだ。
子どもの権利条約の元になった「子どもの権利」の提唱者、ヤヌシュ・コルチャックとその孤児院の子どもたちもここから、トレブリンカ強制収容所に送られた。>これは映画に作品化されもした強制収容所へ消えてゆくコルチャック先生である。ロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』。哀哭と衝撃に張り裂ける思いに言葉なく黙したことだろう。
<1944年、ソビエト軍によるバグラチオン作戦の成功によりナチス・ドイツは敗走を重ねた。解放地域がワルシャワ付近に及びそれに呼応するような形で8月1日、ワルシャワ武装蜂起が行われた。
しかしながらソビエト軍はその進軍を止め、イギリスの度重なる要請にも関わらず蜂起を援助する姿勢を見せず、イギリスによる支援も妨害した。その妨害が除かれた時はすでに手遅れな状態であり、ドイツ軍による懲罰的攻撃によりワルシャワは徹底した破壊にさらされ、レジスタンス・市民約22万人が虐殺され、10月3日鎮圧された。死亡者数は18万人から25万人の間であると推定され、鎮圧後約70万人の住民は町から追放された。生き残った少数のレジスタンスは地下水道に逃げ込み、ソ連軍進駐後は裏切ったソ連を攻撃目標とするようになり、共産政府樹立後も、要人暗殺未遂などしばらく混乱が続いた。>(以上すべてWIKIPEDIAより引用)
これが、第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のワルシャワで起こった武装蜂起である。こうした慟哭の叫び、悲痛を、このクシシュトフ・ペンデレツキの傑作『聖ルカ伝による主イエス・キリストの受難と死』で背後に聴くこととなるだろう。そうした思いゆえに、いや純粋に宗教音楽としてもヨハン・セバスティアン・バッハ音楽史上奇跡の傑作マタイ受難曲におぼえる鳥肌立つ感動に劣らぬ、終楽章終結の神々しいまでの荘厳フィナーレに感動の激震が走ることだろう。

           主よ、私はあなたに希望を持ちました。

           永遠に私を辱めることなく、

           その正義をもって私をお救いください。
          
           御耳を私に傾け、

           急いで私を救いに来てください。

           私を救うため、

           守護神となり、

           安息の家となってください。

           私の霊を御手に委ねます。

           真実の神である主よ、あなたは私をお救いになったのです。





Warsaw Boys Choir - Stabat Mater: come from St Luke Passion, Krzyzstof Penderecki