yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

生成のゆらぎと清冽な精神の緊張、メロディアスなまでに美しい音のうねりジェルジ・リゲティ『Chamber Concerto for 13instrumentalists』(1969-70)ほか

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György Ligeti: Chamber Concerto (1/3)

             

                   ≪言葉は聖なる沈黙にもとづく≫
     ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテJohann Wolfgang von Goethe(1749-1832)

1927年、超ミクロの世界の原理をうちたてたハイゼンベルグの「不確定性原理」。その中心概念ともいえる、自然界にもともと内在する<ゆらぎ>。≪宇宙の中に、もともと理由もなく<ゆらぎ>という性質が存在していて、それが原因となって宇宙は、気まぐれにできたものらしい≫≪宇宙の発生は「無」の<量子的ゆらぎ>によって説明できる≫(佐治晴夫『ゆらぎの不思議』PHP文庫)というこの宇宙生成ゆらぎ説はひじょうに魅力的である。その淡い生成のそよとしたビミヨーなイメージ。≪ところで、「無」というのは物理的性質が定義できない状態のことだとお話しました。にもかかわらず、<「無」のゆらぎ>とはいったいどのようなことを意味しているのでしょうか。いま、あくまでも透明で目に見えない水を想像してください。そこにそよ風が吹いてきて水面にさざ波がたったとします。水面のゆらゆらとした縞模様がはじめて目に映るでしょう。「ゆらぎ」によって見えないものが見えたということです。あるいは、プラス電荷と、マイナス電荷がおなじ分量だけかさなっていて見かけ上、中和されて電荷が見えないとします【引用者―完全な対称性=のっぺらぼうな無規定な秩序】。次に、この電荷の位置がたがいに少しだけずれた【引用者―ゆらぎ、対称性の破れ】とします。かさなっているところは中和されていて電荷は見えませんが、たがいにずれた端の両端からそれぞれの電荷がにじみ出ているのがわかるでしょう。【引用者「ゆらぎの不思議」より別箇所簡略抜粋―<対称性の破れ>=たとえば、『丸いテーブル』に等間隔で何人かの人が座っているとする。その一人一人にパンとナプキンが置いてある。けれどもどの人から見ても自分の左側と右側にナプキンが対称的に置かれているので、どちらが自分のものか判断できない。突如誰か一人がすばやく自分の右側のナプキンを選択する。その瞬間それぞれの人にとっても右側のナプキンが自分のものだという秩序がテーブル上に確立する。つまり、秩序とは対称な状態(まったき秩序)の中からの選択といえる。実際の宇宙では、この最初の選択が宇宙の根源的性質として「無」の世界に内在している<ゆらぎ>です。このように「対称性の破れ」によって宇宙は進化してきたのです。】目に見えなかった何かが、ゆらいだために目に見えるようになる!これが<無のゆらぎ>としての宇宙誕生のイメージです。≫原因結果の因果論ではなく、≪自然の中にはもともと予測できない変動が基本的性質としてあるのだということを認めたうえで、その変動のしかた≫を言い換えれば≪変化の中に変化しない原理≫として<ゆらぎ>をみる考え方。<場のゆらぎ>が目に見える物質粒子として振舞う。あるいは粒子、反粒子の対生成、対消滅の<泡の海>として物理学上の「真空」=無を見る現代物理学。さて長々と<ゆらぎ>が喚起する生成のイメージを、抜群におもしろくよくできた佐治晴夫『ゆらぎの不思議』より引用すさまじく語ってきた。ほかならぬ今回取りあげるジェルジ・リゲティのアルバムを語るためであった。淡い未分明の境、生成犇めく<ゆらぎ>のイメージがこのアルバム三曲に充満しているのだった。もちろんポリリズム、マイクロポリフォニーなどそうした書法上の斬新から来るニューロマンティシズムのメロディアスな響きの説明解析はプロにとっては必要なことだろう。それらはそちらの領分として、私にとっては、リゲティがその独創をもって音を綴り響かした技法ではなく、喚起するイメージ、それが引き連れてくるものが興味のもとなのであった。まさしく波のようにうねり、川面のさざ波の如く、ゆらぐビミョー多彩な美しい音色変化。清澄でありつつ明るくきらきらと輝く響き。微細微分、繊細にゆらぐ音の粒子たち。ブラウン運動の音の粒子、その音塊のゆらぎに漸進的ゆるやかに逸れ行く音の群れ。絶えざる犇めく生成のあわいに茫と、だがまた緊張の、個々の声高ではない音たちのひそやかななかにも明瞭な主張。清冽な精神の緊張と、生成のゆらぎとメロディアスなまでに美しい音のうねり。まったく素晴らしい絶頂のジェルジ・リゲティ、その三作品である。『Melodien for Orchestra』(1971)、『Double Concerto for Flute,Oboe&Orchestra』(1971-72)、『Chamber Concerto for 13instrumentalists』(1969-70)。1975年録音されたもの。リゲティがスコアーの影に浮かんで見えるではないか、今ブログ画像を見てはじめて気がついた。まるで彼の音楽を象徴しているかのようでもある。



György Ligeti - Melodien 1/2