yuki-midorinomoriの日記

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現代音響革新の先導者、サイレンが楽音に鳴るエドガー・ヴァレーズ(1883-1965)『The Varese Album』2枚組

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Varese: Ameriques

                

エドガー・ヴァレーズEdgard Varèse(1883-1965)といえば、甲子園高校野球に使われるようなサイレンが楽音として使われたことで有名である。なぜサイレンか?意味不明なところではあるが。<非西洋音楽の呪術的生命力を目指した>民俗的野性の作風を持つアンドレ・ジョリベが師事していたということもあり、また革新的な音楽作品を戦前戦後にかけて発表していたという風聞もあって、輸入盤カタログを紐解き購入した記憶がある。
しかし針を落としいささかの気落ちを味わったのも確かなことであった。無調以降のクセナキスやペンデレツキーらの音響の革新、その画期を知ってしまった後であれば無理からぬ話であったかもしれない。まさに時代という制約を飛び越えることができないということだろうか。当時としては、センセーションを巻き起こすていの音楽上の出来事ではあったのだろうが。期待が大きかっただけにその落胆は少なからずエドガー・ヴァレーズへの私の評価は芳しいものとはしなかった。
先のような時代制約を考慮せずの、きわめて不当な個人的評価でしかないのだろう。今のレベルをもって過去の出来事をうんぬんするのも詮無いことと判ってはいても、ここがやはりシロウトであり、ファン心理というものなのだろう。
もちろんよく言われる<伝統的な和声、旋律、形式を拒否し、リズムや音色を追求した作曲家>であり。騒音的要素を大胆に楽音へと響きの革新として組織化した試み、いわゆる“組織された音響”の先進性、画期はやはりエドガー・ヴァレーズのものだろう。
また<旋律、和声、形式などの伝統的と思われるもの一切を用いずに、音の色彩、強弱、リズムの性質を中心に追求することによって、つまり、以前の手法に頼らずとも打楽器によって音楽が成り立つことを提示することによって、打楽器音楽時代へのドアを開き>、きわめて生命力のあふれた大胆な打楽器使用によるユニークな響きをもつ作品を作曲した。
ところで繰り返しになるかもしれないが、彼、エドガー・ヴァレーズは≪フランスに生まれ、アメリカに帰化した作曲家。・・・初期はクロード・ドビュッシーらと親交を持ち、後期ロマン派や印象派の影響を受けた作品を書いていた。
しかし、その後初期作品の全てを廃棄し、残っていた草稿も後に火災により消失した(その他、1908年に作曲した交響詩ブルゴーニュ』は1962年に破棄するまで手元に残していた)。その後イタリア未来派・フェルッチョ・ブゾーニイーゴリ・ストラヴィンスキーの影響を受け、「アメリカ」(1920年)以降、打楽器を多用した作品を多数発表。第二次世界大戦以降は電子音楽も取り入れた。
セリー技法によらない作曲法、多数の打楽器の使用、電子楽器の使用など、今までの音楽とははっきりと一線を画する斬新な音響空間は後の作曲家に大きな影響を与え、音楽の可能性を拡大した。≫(WIKIPEDIA)と紹介されている。
やはり先にもあったように響きの革新がテーマであったところに、いささかの先進性がありはするものの、やはり一般的な評価に及ばなかった何かがあるといわざるを得ないのも確かだと思われる。もっともストラヴィンスキーでなく、バルトークでなく、シェーンベルクでなかったところで、その音楽的評価が貶められることは決してない。
音楽史的ポジションは確かなものとしてあり、一度は耳にしておくべき作曲家であり、作品であることは言うまでもない。とりわけ動きが激しくダイナミックで、躍動する生命力を感じさせるエネルギッシュな音楽作品が好みの方には文句なしにお薦めの作曲家である。
今回取り上げたアルバムはロバート・クラフト指揮による『The Varese Album』で2枚組みのものである。RECORD1、A-1.Ionization、A-2.Density、A-3.Integrals、B-1.Octandre、B-2.Hyperprism、B-3.Poem Electronique、RECORD2,A-1.Deserts、B-1.Offrandes for Soprano and Chamber Orchestra、B-2.Arcane。
とりわけ<サイレンのほか、種々の打楽器による過激な音響が人々に強烈な印象を与え>る、代表的作品の「イオニゼーション」、<ブリュッセルで開催された万国博覧会のフィリップス館(コルビジェ設計)で425個のスピーカーから電子音響を流すテープ音楽黎明期の傑作>との評判をよんだ「ポエム・エレクトロニク」、それに木管金管・打楽器と電子音のための「デゼール(砂漠)」、そしてまた比較的初期の聞き易いとはいっても響き、リズムに特異を感じさせるエネルギッシュな「アルカナ」。これらは聞きものではある。
今思ったけれども、マルセル・モース やブロニスロウ・マリノフスキーやラドクリフ=ブラウンなどの文化人類学者たちもエドガー・ヴァレーズとほぼ同年代に生を享け民族学的業績を歴史に残している。民族・民俗音楽への作曲家の関心も機をいつにして起こっており、西洋の拡大膨張するいっぽうの政治経済的野心が、戦争を頂点として澎湃として起こるグローバル化の激甚の時代でもあった。そうしたことの背景を考えるとエドガー・ヴァレーズの響きの、またリズムへの関心も肯かせるものがありはしないだろうか。




Varese: "Hyperprism"