yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

思想的音楽観と資質のリリシズムの足枷にジレンマを聴く『芥川也寸志・作品集』(NAXOS盤)

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Valery Gergiev / NHKso / Yasushi Akutagawa - "Triptyque" for string orchestra

             

イメージ 2作曲家、芥川也寸志といえば、もちろん作家芥川龍之介の息子(三男)であることは衆目の及ぶことである。私はそのことより、彼、芥川也寸志の名を聞くとあの空前絶後の聴視率をとったといわれている、NHKテレビ、大河ドラマ赤穂浪士」の印象的なオープニングテーマをまずいっとうに思い出す。黛敏郎の「題名のない音楽会」だったと記憶しているけれども、ともに東京音大卒でありその師に伊福部昭をもち、のち團伊玖磨との三人で「三人の会」を結成し活動した盟友、芥川也寸志の死を哀悼する意味で、このテーマ音楽が涙とともに演奏されたのではなかっただろうか。印象極まる名曲であることは確かである。たぶんいま聴き返しても往時の感激がそのわずか数分のテーマ音楽でよみがえり、時代の記憶の種々相が遠く経巡り奔ることだろう。1964年、時あたかも東京オリンピック開催の年であり、東海道新幹線が開通した年でもあった。日本が自信を持ち浮き立つ気分で邁進していた時代であった。いまこの稿綴っていて知ったけれど、この年に井上ひさし原作の藤村有弘が音声演じるドンガバチョで、少年少女を虜にした人形劇「ひょっこりひょうたん島」が始まった年でもあった。さて話が逸れた。芥川也寸志は映画音楽を数多く手がけ、武満徹に仕事を回して彼の生活の手助けをしたとの話も知られたことであるけれど、こうしたことからうかがえるように、武満同様に、ひじょうなメロディーメーカーであるのも周知のことである。それは、このアルバムでも終戦直後1948作の「交響三章」でたっぷりと聴く事が出来る。とりわけ2楽章の泣けてくるほどのリリシズムは素晴らしいものがある。(今思い出した、マーラー風の八甲田山もよかった)ただ、のちこの優れた資質が足かせとなりスタイルの革新に飛躍をもたらすに至らなかったことは残念ではあるけれど。解説にもあるように、ソ連の音楽家たち、とりわけ私の聴くところではショスタコーヴィチなどの影響が顕著であるように聴こえる。こうした曲調ではオスティナートを多用しての特徴的なエネルギッシュなオーケストラ展開はのびやかに活きているとはいえる。自身、社会主義体制のソ連、中国への思い入れ強く、また実際に音楽活動も大衆の底上げに尽力したことに顕著であるように、時代性として、このような傾斜は彼の作品形成上無理からぬことであったのかもしれない。しかし、こうしたことで古典的作風にとどまったこと、いやとどまらざるを得なかったのかもしれないことは惜しまれること否めない。時代との齟齬感は日を追って厳しさをましていたことだろうことを、これら作品に聴くのは穿ちすぎだろうか。若き盟友、黛敏郎や、若き才能ある人物として目をかけ、黛に紹介した武満徹らの革新凄まじい飛躍の同時代の歩みを、この徳多き良人、芥川也寸志は、思想的な音楽観と資質のリリシズムとの己がジレンマ、足枷の内に苦悩していかばかりであっただろうかと思えなくもないアルバム鑑賞であった。



収録曲――

1. オーケストラのためのラプソディ
2. エローラ交響曲
3. 交響三章




芥川也寸志 - 映画音楽組曲八甲田山」 / Yasushi Akutagawa - "Hakkoda-san"