yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

緊張に空間が際立って屹立し、煌びやかに輝いて<在る>音で魅惑的なジョン・ケージの『Etude Australes』(1974-75)。

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   『Etude Australes』(1974-75)楽譜(ネットページ『楽譜の風景』氏より転載)

Cage- Etudes Australes Book I No. 1:performed by Steffen Schleiermacher.

        

ジョン・ケージの『Etude Australes』(1974-75)。いままで初期のピアノ作品を拙ブログで取り上げ鑑賞してきた。そうした作品の多くは、ケージがチャンスオペレーション・偶然性の革新的作曲家として世に出てくる前の作品であった。そこにはシンプルな美しさで魅了する作品群があった。今日それらはますます聴く機会が増えていくことだろう。近代の美しい名曲の数々に、その過剰な装飾美に退屈し、いずれは、ケージ嫌いのお人でも聴くことになるだろう。ケージの名を伏せて音が流れてくればたぶん耳そばだて聴くことになることだろう。それほどにやさしさと、簡素な佇まいの美に満ちているピアノ作品である。ところで、この『Etude Australes』は南天球の星座図を元に作曲された全32曲からなる練習曲だそうである。今回のレコード2枚組(米・トマト盤)のものには16番までが収録されている。≪この練習曲集は、グレート・サルタンに捧げられました。小柄なサルタン女史が、内部奏法がある「易の音楽」を懸命に弾いている姿に感化され、ケージが彼女用にカスタマイズした内部奏法がない普通のピアノ曲を作曲しプレゼントしたのです。≫(ネットページ『楽譜の風景』氏より引用)その献呈されたピアニスト、グレート・サルタンが演奏したものである。記譜されているとは云うものの作曲法はもちろん易手法によるもので ≪サルタン女史の片手で演奏可能な、546の5和音、520の4和音、81の3和音、28の音程を音素材とし、星座図と易を元に音素材と配置を決定していくことで作曲≫(同上)された。≪ケージは1951年、無為の境地に立って作曲する方法を見つけます。それがイー・チン=易の占いです。彼は実際には3枚のコインを投げることでイー・チンを代用しました。テンポや音の種類(単独音、和音、複雑な線的事象、騒音、沈黙)、音高、強弱、持続の値(選択、写像)を、それぞれの表に予めプロットしておきます。表の要素数(大きさ)は、それぞれ16~64個と違いがあります。3枚のコインを数回投げることとで、表のどの要素を利用するかが決まり、それを一つ一つ五線譜に書き込んでいったのです。 コイン投げという、完全な偶然性を利用した作曲なので、理屈上は簡単なように感じますが、この手順を実践すれば分かるように、大変な労力を必要とします。実際「易の音楽」には9ヶ月かかったそうです。≫(同上)こうした従来的伝統手法からの逸脱のゆえか、演奏も人間の限界を超えるような音の出現も見られ、実際には≪超絶的技巧を要する作品となって≫いるそうである。そうしたことの薀蓄はともかく、音のなんと煌びやかに輝いていることか。無垢とは云わないまでも空間が際立って屹立し緊張を保持している。一つ一つの音が明確に在る。そうした印象を強く抱かせる。まことに、これは不思議に魅惑的なピアノ作品である。

ところでジョンケージはこうした作品を記譜法により作曲するに至る背景を次のように語っているそうである≪「私は『エチュード』のようなそれまでとは全く違った音楽を書くことに興味を持つようになっていましたが、そう考えるようになったきっかけは、大多数の人々が世界の秩序に対して希望を失っているという現実でした。私は音楽家がステージ上で不可能な要求に立ち向かうようにし向けることで、人々が振る舞うやり方の範例を提供できるのではないかと考えたわけです。私は、この作品から影響されて、世界を変革しようと行動し始める人々が現れてくれたらうれしく思います。」≫(同上)



音楽的素養のないシロウトには分からないことだらけだけれど、大いに参考になりました。興味のある方には是非ともお勧めいたします。
『楽譜の風景』
http://homepage1.nifty.com/iberia/score_cage.htm