yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

図形記譜法、「開かれた形式」でケージに先んじるほどにアメリカ実験派をエネルギッシュに率いたアール・ブラウン(1926 - 2002)。

イメージ 1

Music :Earle Brown  Art:21 | Elegy for Robert Rauschenberg

          

アール・ブラウンEarle Brown(1926 - 2002)のアルバムのブログを綴るため、念のためにいつものことながらWIKIPEDIAをまず覗いてみた。そこには≪あまりにも初期の印象が強すぎたせいか、1970年代以降は専ら過去の人扱いになってしまった感が否めない。しかしながら、作曲は続けており、「開かれた形式」への固執が必ずしも無かったことが確認できる。≫とあった。
たしかに音盤蒐集をやめてからの85年以降、NHK・FMラジオなどの現代音楽放送であまり聴いた記憶がないことからすれば、50年代の華々しいエネルギッシュな革新的活動のように耳目を集めるほどのポテンシャルを発揮できなかったようだ。
ジョン・ケージモートン・フェルドマン、クリスチャン・ヴォルフらのアメリカ・ニューヨークの実験音楽派で、その名を連ねたアール・ブラウン。ジョン・ケージよりおよそ一回り違う世代である。
とはいえこのアルバムに収録されている先進的なコンセプトでの図形楽譜や、大まかな指示だけでの「開かれた形式」での演奏スタイルの作品の発表年代を見ると、ケージの音楽史的革命ともいえるチャンスオペレーションの先取り的功績ともいえる。
≪記譜法の歴史に画期的な局面をもたらした作品なのである。≫(WIKIPEDIA)そうした作品として有名なのが≪楽曲「1952年12月(原題: 'December 1952')」≫(同)であり、その曲というより、アヴァンギャルドパフォーマー、ピアニストのデヴィッド・チュードアによってリアリゼーションされたものがイメージ 2このアルバムに収められている。
まことに極度に尖ったハードでエキセントリックなピアノパフォーマンスで楽しませてくれている。こうした先取り的な不確定・偶然性のコンセプトの音楽への果敢は、ケージからというよりはジャクソン・ポロックに代表されるアメリカ抽象表現主義美術の荒々しい動向に刺激されてのものといわれている。
そのポロックらからのコンセプチュアルな影響のもとに台頭、斯界を席巻した≪ネオダダ及びポップ・アート≫(同)の流れを代表するジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns, 1930 - )や、とりわけロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg, 1925 - )らとの交流の密なことが背景にあるとされている。
消費社会の爛熟に溢れかえり、平準、無価値化されたごみ同然ともいえる商品のポップデザインを素材として、同じ地平に美の顔に泥を塗りコラージュし、そして破壊したネオダダの芸術動向は、既成秩序、制度に否・ノンを突きつけた。そうした動きと音楽の不確定・偶然性の提示はパラレルであった。
また≪ブラウン作品の大半は、素材が作曲されているものの、演奏の順序が演奏中の指揮者や演奏者の裁量に委ねられている。しばしば音部記号が書かれないため、ピッチを好きなように決めることができるだけでなく、ページの上下を普通に読むことも、あるいは回転させて読むこともできる。どのページから始めて、どのページで終わってもよい。また、声部数も演奏者の任意の解釈が許されている。「開かれた形式」によるブラウン作品の場合、このように読譜の手順に数多くの可能性が開かれており、2度の演奏が同じことの繰り返しになることは、まずないといってよい。ブラウン自身は、開かれた形式による自作を、アレグザンダー・カルダーのモビールに関連づけている。≫(同)
このような「開かれた形式」といわれる彼のコンセプトは、これもまた今世紀の大きな諸芸術動向からの影響のもとにある。
それは自然、環境に<私(自我)・主体>をあけわたす人間観の移遷の大きなトレンドの一端でもあり、人間主義の解体でもあっただろう。人間の後退である。秩序化され、制度化された音の解体、騒音、雑音のランダムネスへの回帰であった。
A面1曲目4チャンネルテープとアコースティック楽器との協奏『TIMES FIVE』(1963)のエキセントリックで奔放な、まさしくラウシェンバーグのコンバイン絵画に見るコンセプトに相同の響きといえようか。明るい清新のハツラツの音作りだ。
また次の8つのスピーカーのためのテープ作品『OCTET 1』(1953)は、これこそアメリカ実験派といいたくなるほどの鋭角的にスッキリとして吹っ切れたテープリアリゼーションだ。≪ラジオ音源を猫の目展開で鋭くカットアップ・コラージュした作品で、かなりショッキングでクレイジーな作品となっています。≫(ネット記事より)とあるように、ここにもラウシェンバーグなどの美術の新表現手法が導入されている。ノイズ好きには堪らない魅力の響きを持っている。
そして、先にあげた図形記譜法での記念碑的ピアノ作品の『DECEMBER 1952』。これらが、この年代のものであることにやはり驚かされる。そこには力強い確信がみなぎっている。これこそが時代を切り開いた者にのみ与えられる揺らぎのなさなのかもしれない。
最後は『NOVARA』(1962)。ここで聴くごく普通の点描的音楽世界にも、明瞭、メリハリがくっきりと刻み込まれている。同時代的作品のなかでもクリヤーさメリハリにおいて、やはり新大陸アメリカであり、芸術動向の一方での革新の先端を奔っていた確信を聴くことだろう。おしなべて、アメリカ実験派をエネルギッシュに率いたアール・ブラウンの背景にあるアメリカ芸術新思潮のパワーを聴く思いである。

イメージ 3左よりクリスチャン・ヴォルフ、アール・ブラウン、ジョン・ケージモートン・フェルドマン



アール・ブラウン音楽財団公式サイト(英文)
http://www.earle-brown.org/




アレクサンダー・カルダー(Alexander Calder、1898 - 1976、アレクサンダー・コールダーとも)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC

モビール(mobile、モバイル、モービル)は、動く彫刻(キネティック・アート)の一種。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB