yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

狂気じみた緊張の世界。うねり流動するクラスターの音世界に存在認識の変革を聞くジェルジ・リゲティ(1923-2006)の『アヴァンチュール』(1962-63)ほか。

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György Ligeti, Aventures

            

イメージ 2まことに刺激的である。ジェルジ・リゲティGyorgy Ligeti(1923-2006)の『アヴァンチュールAventures』(1962-63)と『ヌーヴェル・アヴァンチュールNouvelles Aventures』(1962-65)。どちらもソプラノ、アルト、バリトン歌手と7人の器楽奏者のための作品だ。
音声には何らの意味も付与せず、単なる抽象的な音として扱っている。意味に引き摺られない分、これがまことに素晴らしく音空間に緊迫の度を加える。生々しく狂気の度を加速するのだ。そりゃそうだ。感情の直接的な表出の意味なさぬ叫び、喘ぎ、呻き、笑い声などの横溢する狂気の世界をイメージすればお分かりだろう。
もちろん音声だけではない。持続音と強烈なアタック音の対比が創り出す器楽音も素晴らしく精神性を感じさせるものだ。すべて最初から最後まで生々しい音声と器楽音との鋭い対比的絡みで狂気じみた緊張の世界を提示する。この期、噴出するがごときリゲティ世界の誕生の時であったのだろう。
母国ハンガリーの政治的動乱(1956)を機にウイーンへ亡命しての無国籍状態での音楽生活。アイメルトやシュトックハウゼンらとのケルンでの電子音楽の研鑽。制作年代をみれば短絡に過ぎるかもしれないが、そうした苦悩の反映結実と思えなくもない。別に意図しているわけではないだろうけれど。
それにしても、この作品のインパクトは大きいものがある。素晴らしい音楽世界だ。さて、音群・クラスター書法での音楽史的記念碑作品として上げられるもののひとつが『アトモスフェールAtmospheres』(1961)である。
もちろん人口に膾炙することとなったのは≪スタンリー・キューブリックが映画『2001年宇宙の旅』の中で彼の作品を4曲(《アトモスフェール》、《アヴァンチュール》、《レクイエム》、《ルクス・エテルナ》)使用したことにより、彼の名前は一般の人にも知られることとなった。その後もキューブリックは『シャイニング』で《ロンターノ》を、『アイズ・ワイド・シャット』で《ムジカ・リチェルカータ》を採用している。≫(WIKIPEDIA)との、こうした経緯あってのことである。傑作『レクイエム』はことのほか印象深い。
1958年ダルムシュタットで、文化新興国アメリカのケージの<偶然性>がもたらした混乱。そしてトータルセリー音楽の細分化のどんづまりという時代背景。決定論への疑念。つまりはそれまでの表出・表現概念を支える<主体・自我・主意>の破砕、ゆさぶりの動きの到来であった。その一方の動きが電子音楽のもたらした響き・音色変化への着目であり世界認識の変革であった。
≪テント写像により引き起こされるカオスについて、1963年ローレンツ・アトラクタで有名なエドワード・ローレンツ(Edward Lorenz)により提唱された。このタイプのカオスは、ローレンツカオスと呼ばれる(後述するカオスの例)。
京都大学工学部の上田睆亮は、1961年に既に、非線形常微分方程式を解析する電気回路で発生したカオスを物理現象として観測し、不規則遷移現象と称してカオスの基本的性質を明らかにしていた。しかし、日本の学会ではその重要性が認識されず長い間日の目を見なかった。この上田の発見は、ジャパニーズアトラクターとして海外で評価されている。
これらの複雑な軌道の概念は1975年、ヨークとリーによりカオスと呼ばれるようになった。また、マンデルブロ集合で有名なブノワ・マンデルブロなどにより研究が進んだ。≫(WIKIPEDIA)斯く全方位で、全体(複雑)からの秩序化、存在・認識の獲得でもあった。
いうまでもなく音楽上での音色・響きの探求は時代の存在認識と軌を一にしていたということなのだろう。さて最後のオルガン独奏作品の『ヴォルーミナVolumina』(1961-62.1version)も、こんなのあり?との念をもたらす凄まじい音塊の飛びかう驚愕のパイプオルガン作品である。
技法・奏法の挑発的な独創性といい、もう圧倒的な精神のエネルギーの流動に満ちた素晴らしい作品であることだけ言っておこう。
うねり流動するクラスターの音世界は、複雑系・カオスの音芸術での先取りでもあったとの謂いは、あながち牽強でもないだろう。抽象表現主義絵画の潮流もまた然り。時代は熱く動きはじめていていた。




Atmospheres-Gyorgy Ligeti



ジェルジ・リゲティ(György Sándor Ligeti, 1923トゥルナヴェニ - 2006ウィーン)は、ルーマニア出身のハンガリー人でオーストリア在住かつ市民権を得ている作曲家。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%B2%E3%83%86%E3%82%A3