yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

音響渦巻く混沌へと、もの皆消え入るが如くの超越<トランス・TRANS>。シュトックハウゼン(1928 - )の『トランス』(1971、74)。

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Karlheinz Stockhausen ~ Trans (extract)

            

シュトックハウゼンKarlheinz Stockhausen
イメージ 2はたして事細かに今回取り上げる、このシュトックハウゼンKarlheinz Stockhausen(1928 - )の『トランス』(1971)の、通常のオーケストラ配置とはまったく変わった、まるで集合記念写真をとるときのように壇上に横一列に並ぶそうした特異な配列方法や、演奏方法などをネットページの作品詳説から引張ってきてもいいのだけれど・・・。そうしたことが、どれほどの役に立つのか正直なところ分からない。じっさい、音を聞いている限り、そのような事はおよそ関係ないことのように思われる。だが演奏会場では、そうした配置や照明等の視覚的な要素が、シュトックハウゼンのオカルティックな傾向性を浮かび上がらせる効果を持つのだろうけれど。例えば
≪演奏の始めには、カーテンは閉じておきます。オーディトリウムの照明を消します。カーテンは約一分かけてとてもゆっくりと開きます(あるいはさらにゆっくりと)。ステージ全体は赤紫色のぼんやりとした照明に万遍なく覆われています。この色は説明しにくくて;北極を飛行機でこえるときに見る夜明けの赤紫色の光---そして晴れた夕方の日没で水平線の下に太陽がほとんど沈んでしまったときに現われる赤紫色の光のようで;しかしながら、光は拡散されぼんやりとしていなければなりません。この色彩の効果を成し遂げるためには、ステージのエプロン上のスポットライトから向けられた紫色の光で照らされた薄い紗のカーテンが必要です。もし可能であれば、紗の生地は見えないようにしなれればなりません。
 楽譜を読むことを容易にするために、頭上からの照明を追加します。
カーテンが開くと、弦楽器は一人また一人と演奏を始めます。彼らはロボットのように演奏して同じ姿勢をとり同じ運弓法で、演奏が終わるまでそのままです。彼らは固定されて座り:ただ弓を持った右手だけが、まったくムラなく、動きます。弓の返しは完全に同調しなければなりません。運弓法はできるだけゆっくりと(一音につき1上げ弓と1下げ弓)、そして各々の音は一定のmf(おおよそ)でなければなりません。≫(ネットページ「シュトックハウゼン音楽情報・シュトックハウゼン全集・ライナーノート」より引用)
という変わった趣向から想像する以外にない。ただ、このレコードには作品『トランスTRANS』がエルネスト・ブール指揮の、会場での初演リアリゼーションのA面と、ハンス・ツェンダー指揮によるスタジオ録音によるB面のものとの併収となっている。

≪1971年10月16日のドナウエッシンゲンでのエルネスト・ボウアの指揮する南西ドイツ放送局オーケストラとK.シュトックハウゼンサウンド・プロジェクションによる世界初演は---聴衆のあらゆる反応によって---シュトックハウゼン作品の初演での「ホット」な雰囲気が記録されています。
 別のオーケストラによるいくつかの演奏が後に続きました。ザールラント放送局のオーケストラは、ハンス・ツェンダーの指揮と、K.シュトックハウゼンサウンド・プロジェクションによって、メッツ(フランス)のミュニシパル劇場にて『トランス』を二回上演して、1974年1月にこのスタジオ録音を製作しました。≫(同上)

演奏会場バージョンには、途中笑い声や、拍手、そして最後には口笛・大ブーイングと賛意の喚声と拍手との混沌のうちに終わっているのもオモシロイものであった。普通こうした聴衆の発てる音などカットされるのだけれど、どういう意図なのだろう。スケールとダイナミズムと引き締まったパフォーマンスで聴かせるのは、初演から3年という月日を経ている所為かハンス・ツェンダー指揮のスタジオ録音版である。混沌に錯綜とした響き、それに≪シュトックハウゼンサウンド・プロジェクション≫の切れ味も素晴らしい。オカルティックなエレクトリック変調操作が冴えに冴え渡っていて、さすがシュトックハウゼン!聞かせるではないかといったところである。ドンドンと混沌の深みへ、音響渦巻く混沌へと、もの皆消え入るが如くの超越・<トランス・TRANS>である。







エルネスト・ブール(Ernest Bour, 1913 - 2001)はフランスの指揮者。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%AB