革新的保守性に、民族の矜持をさえ聞く譚盾（タン・ドゥン）の『マルコ・ポーロmarco polo』（1995-96）
譚盾（タン・ドゥン Tan Dun）
今日は、現代中国を代表する、といっても国外で活躍する現代音楽の作曲家である。と言うはいいけれど、斯く云う私は、この譚盾（タン・ドゥン Tan Dun 1957-）なる人物を知ったのは、このブログをはじめて間もない頃、武満の稿のために参照程度に拾い読みしていた彼の著作からはじめて知ったのだった。８０年央頃から、音盤蒐集や、それらの傾向性の音楽から遠ざかったため、それ以降の動向に疎くなってしまっていた。まさにそうした頃以降にブレークした作曲家なのだろう。WIKIPEDIAによると彼は武満徹の音楽（性）に影響を受けているそうである。そうしたことがあってかどうかはしらないが、武満も譚盾に注目していたと記憶する。サントリーホール国際作曲委嘱シリーズへのパンフレットのコメントであるということを考慮してもその賛辞は大なるものがある。≪譚盾（タン・ドゥン）の鍛え抜かれた才能は、今日、他に類例を見出せないほどのものだ。中国の永く重い伝統の中での自己確立。また、政治社会状況の激しい変動の中での自己確認のために、音楽表現はかれにとってかけがえのないものとなった。そしてさらに、彼の内面における東洋と西洋の相克は、比類の無い独自の音楽宇宙を顕在化させた。譚盾（タン・ドゥン）の音楽は、そのどこを截っても、人間の生々しい血が噴き出るほどに激しいものでありながら、だがそれはまた同時に、あくまでも典雅である。（1993）≫(武満徹『時間の園丁』新潮社・1996より)と幾分パターン化した評言だけれど、このように述べ讃している。（武満徹の生まれは東京だけれど、小学校入学時までのあいだ中国・大連で育ち、そのせいか、格別の思いがあるようだ。このことは、満洲国奉天市（中国瀋陽市）生まれの小沢征爾との対談本「音楽」で窺われる）というわけで、この譚盾（タン・ドゥン）なる作曲家はいかなるものか気になり、ＣＤを買ってみた。しかし、タワレコの棚にあったのはたったの一枚で、それもオペラとあり２枚組みであった。そのタイトルは『マルコ・ポーロmarco polo』（1995-96）とあり、およそ一時間半である。正直あては外れた。もっと特殊奏法が満載の先鋭な音作りなのかとおもっていたが、案外にオーソドックスな印象であった。しかしオペラとあれば、いたし方ないのかもしれない。オペラであれば、脈絡無く意味が通らないような音作りは作品として果たして存立しえるのかどうか。武満や、近藤譲などの抽象性の強い作曲コンセプトで、あるいは体系性を受け入れない＜知＞の枠組みで、はたしてオペラが制作できるのだろうか。私には疑問である。ともかく保守的にすぎるとも言い切れず、さまざまな現代音楽の意匠が塗りこめられるのだけれど、精神性においては民族（俗）伝統が強く保守されているせいもあって、古くささを感じさせなくは無いけれど、その保守性がことのほかの芯の強さの印象を抱かさせる。中国本来の歴史に根ざした民俗楽器、その現代性を持たした奏法、また歌唱部分での自己を失わぬ唱法の伝統の固執は矜持をさえ感じさせるものがある。西洋との対峙、自己の民族的存在根拠の確認剔抉は、これくらいの革新的保守性において十全になされなくてはならないのかもしれない。イサン・ユンしかり、この譚盾（タン・ドゥン）においても。民族（俗）性を包摂した音を創造しえるかどうかなのだろう。もちろん、そうしたことを捨象しての抽象性への志向展開もあってもよい。すべてはゆるされるのだから。しかし譚盾（タン・ドゥン）はそれをとらない。これは大事なことだ。≪アメリカのアカデミズムの言語（例えばコープランドのような保守的な色合いの強いもの）が下敷きになって、その上に施された装飾に過ぎない。この欠点は多くの研究者が指摘している。≫（WIKIPEDIA）と、このように意匠の折衷性を指摘されているようだけれど、さて、どうなのだろう。
今日は、現代中国を代表する、といっても国外で活躍する現代音楽の作曲家である。と言うはいいけれど、斯く云う私は、この譚盾（タン・ドゥン Tan Dun 1957-）なる人物を知ったのは、このブログをはじめて間もない頃、武満の稿のために参照程度に拾い読みしていた彼の著作からはじめて知ったのだった。８０年央頃から、音盤蒐集や、それらの傾向性の音楽から遠ざかったため、それ以降の動向に疎くなってしまっていた。まさにそうした頃以降にブレークした作曲家なのだろう。WIKIPEDIAによると彼は武満徹の音楽（性）に影響を受けているそうである。そうしたことがあってかどうかはしらないが、武満も譚盾に注目していたと記憶する。サントリーホール国際作曲委嘱シリーズへのパンフレットのコメントであるということを考慮してもその賛辞は大なるものがある。≪譚盾（タン・ドゥン）の鍛え抜かれた才能は、今日、他に類例を見出せないほどのものだ。中国の永く重い伝統の中での自己確立。また、政治社会状況の激しい変動の中での自己確認のために、音楽表現はかれにとってかけがえのないものとなった。そしてさらに、彼の内面における東洋と西洋の相克は、比類の無い独自の音楽宇宙を顕在化させた。譚盾（タン・ドゥン）の音楽は、そのどこを截っても、人間の生々しい血が噴き出るほどに激しいものでありながら、だがそれはまた同時に、あくまでも典雅である。（1993）≫(武満徹『時間の園丁』新潮社・1996より)と幾分パターン化した評言だけれど、このように述べ讃している。（武満徹の生まれは東京だけれど、小学校入学時までのあいだ中国・大連で育ち、そのせいか、格別の思いがあるようだ。このことは、満洲国奉天市（中国瀋陽市）生まれの小沢征爾との対談本「音楽」で窺われる）というわけで、この譚盾（タン・ドゥン）なる作曲家はいかなるものか気になり、ＣＤを買ってみた。しかし、タワレコの棚にあったのはたったの一枚で、それもオペラとあり２枚組みであった。そのタイトルは『マルコ・ポーロmarco polo』（1995-96）とあり、およそ一時間半である。正直あては外れた。もっと特殊奏法が満載の先鋭な音作りなのかとおもっていたが、案外にオーソドックスな印象であった。しかしオペラとあれば、いたし方ないのかもしれない。オペラであれば、脈絡無く意味が通らないような音作りは作品として果たして存立しえるのかどうか。武満や、近藤譲などの抽象性の強い作曲コンセプトで、あるいは体系性を受け入れない＜知＞の枠組みで、はたしてオペラが制作できるのだろうか。私には疑問である。ともかく保守的にすぎるとも言い切れず、さまざまな現代音楽の意匠が塗りこめられるのだけれど、精神性においては民族（俗）伝統が強く保守されているせいもあって、古くささを感じさせなくは無いけれど、その保守性がことのほかの芯の強さの印象を抱かさせる。中国本来の歴史に根ざした民俗楽器、その現代性を持たした奏法、また歌唱部分での自己を失わぬ唱法の伝統の固執は矜持をさえ感じさせるものがある。西洋との対峙、自己の民族的存在根拠の確認剔抉は、これくらいの革新的保守性において十全になされなくてはならないのかもしれない。イサン・ユンしかり、この譚盾（タン・ドゥン）においても。民族（俗）性を包摂した音を創造しえるかどうかなのだろう。もちろん、そうしたことを捨象しての抽象性への志向展開もあってもよい。すべてはゆるされるのだから。しかし譚盾（タン・ドゥン）はそれをとらない。これは大事なことだ。≪アメリカのアカデミズムの言語（例えばコープランドのような保守的な色合いの強いもの）が下敷きになって、その上に施された装飾に過ぎない。この欠点は多くの研究者が指摘している。≫（WIKIPEDIA）と、このように意匠の折衷性を指摘されているようだけれど、さて、どうなのだろう。Tan Dun公式サイト
http://www.tandunonline.com/home/default.asp
Art of the States: Tan Dun Nine Songs (1989) この作品公開されています。
http://artofthestates.org/cgi-bin/composer.pl?comp=159
http://www.tandunonline.com/home/default.asp
Art of the States: Tan Dun Nine Songs (1989) この作品公開されています。
http://artofthestates.org/cgi-bin/composer.pl?comp=159
