yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

<演奏家>高橋悠治の最初期のベートーベン『ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 作品110』(1971)。

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Rudolf Serkin - Beethoven Sonata No. 31, Op. 110 - 1st Movement:live 1987

            

イメージ 2高橋悠治が弾くベートーヴェンということで、多分購入したのだろう。見開きの録音データを見ると1971年となっている。彼のバッハは、よく目にし聞いてきたが、オフィシャルサイトを覗いたところ、この『Yuji Takahashi Piano Recital』(1971)がいっとう最初のピアノ演奏音源であることを知った。順を追って出されるたびに手にしていたのに、振返って検証するような機会が無かったせいもあるのか、こうした事の追認で、自身の記憶のお粗末さを思い知らされた。正確ないわゆるディスクグラフィーではないけれど、以下のCD紹介記事があった。

高橋悠治コレクション全13タイトル COCQ-84162-75
(1)COCQ-84162 J.S.バッハゴルトベルク変奏曲 [録音:1976年]
(2)COCQ-84163 J.S.バッハ高橋悠治・編):フーガの[電子]技法 [録音:1975年]
(3)COCQ-84164 J.S.バッハ:クラヴィーア協奏曲集 [録音:1973年]
(4)COCQ-84165~66(2枚組) J.S.バッハ:パルティータ全集 [録音:1977-78年]
(5)COCQ-84167 J.S.バッハインヴェンションとシンフォニア [録音:1977-78年]
(6)COCQ-84168 高橋悠治パーセル最後の曲集 [録音:1974年]
(7)COCQ-84169 ベートーヴェンメシアンストラヴィンスキー [録音:1971年]
(8)COCQ-84170 シューマンクライスレリアーナ&森の情景 [録音:1976年]
(9)COCQ-84171 ドビュッシー:映像・版画・喜びの島 [録音:1975年]
(10)COCQ-84172 クセナキスメシアン [録音:1976年]
(11)COCQ-84173 トゥワイライト/ 富樫雅彦+高橋悠治 [録音:1976年]
(12)COCQ-84174 ディスタンス・ヴォイセズ/ 高橋悠治+佐藤允彦 [録音:1974-75年]
(13)COCQ-84175 高橋悠治ソングブック「ばくは12歳」[録音:1977年]

しかし上記リストはコロンビアより出されたもののみであるようで、他社のものがるのかどうかはこのリストからは分からない。武満作品の演奏がグラモフォンにあることから、そうなのだろう。それにしても古典作品を演奏収録する最初期のものである事は確かなようだ。それはそうと、このリストを見てもそうかなと思わせるのだけれど、高橋悠治モーツアルト嫌い?だそうで、どうしてだか私は知らない。どこかでそうしたコメントなりなされているのだろうか。知りたいところである。さてそうすると、<演奏家高橋悠治の古典へのアプローチの出発が、のち数多く出すにいたるバッハでなくベートヴェンとは、ちょっと意外な感じがしなくは無い。<主体><表現・表出>などを括弧に括る現代音楽の<場>に身をおく作曲家、演奏家にとってはベートヴェンとは敬して遠ざけるといった存在のように思えるのだけれど。音楽の、、芸術の神秘、至高性、構造の神格としてのバッハ。たえざる根拠として回帰すべきバッハ。武満徹は、こよなくマタイ受難曲を愛した。作曲の前に、そのいくつかの節を弾いてみるのが習いだったとか。窓外雪降るなか、いまわの際で、その受難曲を耳にしたという。<主体>という、胡散臭くわけわからぬ、しかし堅固な実体への苛立ち。しかしこのベートーベン『ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 作品110』は、大家風ではない、好感のいたってまじめで、ひかえめなベートーヴェンだと私には思える。大家のもつスケールの大きなベートーヴェンではない。しかし共に聴くという好感の至福はある。そして、オリヴィエ・メシアンのリズムのエチュードといわれている『カンテヨジャーヤ』。リズムとは、存在生成の謂いにほかならない。胎動のうちに存在は生成する。始まりの始まりは差異をもって始まる。ランダム、無秩序から秩序の生成、そこにはリズムが介在する。自然が持つそれへの眼差し、執拗なリズムの探求。根源的な営為。自然への真摯でもあるだろう。聞いているうちにそのはじめて聴く違和なリズムが、生成として、一瞬崇高さ、神々しささえ感じさせるから不思議である。そうした果敢としてこの『カンテヨジャーヤ』を聞くことができる。もう一つはストラヴィンスキーの『イ調のセレナード』。古典的表情の端正で美しい仕上がりとだけいっておこう。