yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

<ウツ>のはてに雪崩れ込んでくる放心の充溢。インテンシヴな冷たい情熱・パトスに満ちたインプロヴィゼーション・ジャズ『The Music Improvisation Company 1968-1971』

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Untitled 4 / The Music Improvisation Company 1968-1971

            

「氷ばかり艶なるはなし。苅田の原などの朝のうすこほり。古りたる檜皮の軒などのつらら。枯野の草木など、露霜のとぢたる風情、おもしろく、艶にも侍らずや」(心敬『ひとりごと』)


イメージ 2さて、きょうはひさしぶりにフリージャズ。それも飛びっきり内閉的でインテンシヴきわまる冷たいサウンドで俗にいう痺れさす快感をもたらしてくれるイギリスのフリージャズ『The Music Improvisation Company 1968-1971』 (INCUS17)。前のブログ記事でも言ったように、真冬のすべてがこそぎ落とされ涸れはてた寂しく厳しい風景にも風流を見出す、まさに<冷(ひえ)さび>だ。これほど意味地平を解体し、ひたすら<虚・うつ>へと内なる超越の志向を示したフリーインプロヴィゼーションジャズ、いや即興音楽もめずらしい。≪ウツは内部が空洞になっている状態をさしています。・・・それゆえウツという語根からは、ウツロ・ウツホ・ウツセミという言葉が生じます。・・・ところが、このウツなるものは何かの情報を宿す力をもっているのです。・・古代人が尊んだサナギ(サナキ)といものがあります。銅鐸や鉄鐸の「鐸」のことで、ちいさなサナギはシャーマン(巫女)たちがいくつも腰にぶらさげました。やはり中は空洞です。しかしそれを腰や手にしてジャラジャラと音をたてるのが、シャーマンの身に何かのスピリットをもたらす媒介となりました。あるいは未知の情報の到来を感知する媒介になったのです。このサナギは昆虫の蛹にも通じます。蛹も中がからっぽのように見えて、そこからいずれ蝶のような輝くばかりに美しい生命が誕生します。・・このようにウツは、内側が空洞なのに、そこに何かが生まれたり宿ったりするという生成力をもった言葉だったのです。そのためウツに漢字をあてると「空」とも「虚」ともなるとともに、「全」ともなります。一見してわかるように、「空」と「全」とはまったく正反対の意義をもっている漢字です。英語でいえば、ナッシングとエヴリシングですから、まさに正反対です。しかし、あてがった漢字にそのように正反対の字義があるということは、ウツにはもともと反対の意味を吹き出せる力があったということです。私はこのような古代的なウツをめぐる観念には、一時的な「負」の状態こそが「正」を予兆させるという見方が孕んでいると思います。≫(松岡正剛「おもかげの国、うつろいの国」・NHK出版)この興味深い<ウツ>論をふつふつと感じさせるパフォーマンスといえるだろうか。<ウツ>のはてに雪崩れ込んでくる放心の充溢。まさにこれなのだろうと思わす、インテンシヴな冷たい情熱・パトスに満ちたインプロヴィゼーション・ジャズとして類を見ない1970年の音楽史の出来事であったといえよう。この冷え冷えとしたウツの充溢と放心の美。見事なアルバムだ。メンバーはDerek Bailey(g)、Jamie Muir(perc)、Hugh Davis(live electronics,org)、Evan Parker(ss,amplified auto-harp)。

     「世の中をなににたとへむ朝ぼらけこぎゆく舟のあとの白浪」(萬智)

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長谷川等伯 松林図屏風