yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

「ジャズディスク大賞」「日本ジャズ賞」をダブル受賞の前作よりコレクティヴパフォーマンスに魅力あるアルバム富樫雅彦の『ギルド・フォー・ヒューマン・ミュージック』(1976)。

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Masahiko Togashi - Third Expression:from 'guild for human music'

           

富樫 雅彦
イメージ 21975年のスウィングジャーナル誌「ジャズディスク大賞」「日本ジャズ賞」をダブル受賞して名作としてその名を刻む『スピリチュアル・ネイチャー』。以前≪親しみやすく、心地よく聞きやすい、情緒性を感じさせる作品富樫 雅彦『スピリチュアル・ネイチャー』(1975)≫とタイトルして取り上げた。その翌年にほぼ似たようなメンバーの構成で、またコレクティブな音楽展開もそんなに大きく変わっているわけではないアルバムが今回取り上げる『ギルド・フォー・ヒューマン・ミュージックGUILD FOR HUMAN MUSIC』(1976)である。メンバーは富樫雅彦(perc)、横山達治(perc)、豊住芳三郎(perc)、 池田芳夫(b)、翠川敬基(cello,b)、佐藤允彦(p)、中川昌三(reed & woodwinds)、宮田英夫(reed & woodwinds)、鈴木重男(reed & woodwinds)。抽象的で何も言っていないに等しいのだけれど、ジャズを超えたジャズ、<音楽性>の質が違うね!といった呟きが出てくるぐらい素晴らしいものがあります。今回もまた聞き較べてのことではないけれど、前作の『スピリチュアル・ネイチャー』よりもピアノの佐藤允彦の素晴らしさが、もちろん彼だけではないのだけれど、際立って耳に入ってきた。堪らないですねこのセンス、と言いたいところ。アルバム全体のトーンはタイトルネーミングがずばり言い表していると言ってもいいだろうか。日本ともいかずアフリカともいかず、その音楽的に抽象されたヒューマンな襞、音色形成展開には包み込む優しさをそなえ、リラクゼーションをもたらすコラボレーションとなっている。とりわけこのアルバムに特徴的な弦の通奏するリフに乗っかての展開がそれらを効果的に倍加する。個々の力量もさることながら、これは前作同様、富樫雅彦のコンセプトに負うところが大きいのだろうか。個人的にはこちらのアルバムのほうがそのコレクティヴパフォーマンスに魅力あるアルバムとなっているように思われる。前作にはメンバーにいた御大、渡辺貞夫が抜けているぶん私には好ましい傾向の音作りとなっているように思った。畏れ多いことで、べつに彼を貶めて云っているのではない事は申し添えておきます。やはり彼のボサノバに至るポップジャズセンス(穐吉敏子との角逐、ジャズへのスタンスの違いはこのあたりにあるのだろうか)は違う領野でこそ生きるようだ。さて、≪「ジャズを始めてしばらくの間は、ボクは、子供の頃に泥まみれになって遊んだ頃の記憶を忘れていた。けれども、近年、それがしきりによみがえり、意識してはいないのに、いつも音楽のイメージが湧くときには、自然や郷愁めいたものがついてまわっている」≫(レコード解説・児山紀芳)と富樫雅彦は≪内面にひそむ自然への憧憬≫を語っているそうである。確かに前作にしろ今回の作にしろ、その音作りにはそうしたことをつよく感じさせるし、またタイトルには<スピリチュアル>があり、<ヒューマン>があることからも頷けるところがあるといえよう。≪『ギルド・フォー・ヒューマン・ミュージック』――これは作曲家、打楽器奏者、富樫雅彦が音で描いた創意と詩情に満ち溢れた“寓話”の世界とでもいえばいいのだろうか≫(レコード解説・児山紀芳)。端的にそうであるだろうと、この巧みな評言を引用して擱えることとしよう。



参考――