yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

論理と流動する音列、保守的革新の確固とした情熱、意志のひとピエール・ブーレーズ「シュル・アンシーズSur Incises・3台のピアノ、3台のハープと3つの打楽器のための」(1996-98)ほか。

イメージ 1

Boulez - Sur Incises (extract) - Ensemble InterContemporain

         

ピエール・ブーレーズPierre Boulez(1925 - )
イメージ 2衰え知らぬ、とはこういうのをいうのだろうか。およそ古希を迎えて以後の作品集。
この鋭敏な音色、響きへの研ぎ澄まされた感性。流動する音列美。マンネリとは言わさない緊張湛えた独特が響いてきて気持ちがいい。
決して音の過剰過飾のマニエリスムに流され埋没することなく、というよりこれが、ともに優れたルチャーノ・ベリオとの感性の差といえるのだろうか。
ここには浸る、あるは身を任せる、あずけるといった他動的な、他律的な、なすがままはない。やはりどこまで行っても、強固な意志が働いている。合理といえば合理であり、論理といえばそうなのかもしれない。そう、構築性といえば言えるのかもしれない。
音列が合理の意志として明確にその音色形成にはたらいているのが聴き取れる。もうこれは独擅場といってもいいくらいブーレーズの世界である。
先日久しぶりに中古CDショップを覗き、そこでたまたま運よく出くわしたピエール・ブーレーズの比較的最近の1997~8年の作品が収められたものが今日のアルバム。
それでも国内発売年が2000年10月とあるから、だいぶ日の経過したものと言えるのかもしれない。しかし作曲家としては寡作のブーレーズとしてみれば、最近作としても間違いではないと思われるけれど。
若いときならいざ知らず、通常値ではとても変えないような価格のものだったけれど、およそ半額ということで買った。やはりブーレーズだ。堪能し愉しませてくれた。タイミングのよい、いい出会いだった。
さてそのブーレーズの新作3作品。
まずは、豊穣な音の煌き流動する世界がすばらしく、あの傑作「プリ・スロン・プリpli selon pli(マラルメによる即興)」を、いや、のちの「デリヴDerive」思わすごときの、世界初録音である「シュル・アンシーズSur Incises・3台のピアノ、3台のハープと3つの打楽器のための」(1996-98)。
もちろん楽器構成からもくるのだろうけれど、響きはより多層的なふくらみをもち、また生き生きとしたリズムの躍動もメリハリに色をつける。おまけにトータル37分という長大な作品でボリュームたっぷりである。
それにしても、こうした曲を聴くとブーレーズは打楽器系が好きなようだ。引き締まった音響世界が得られるということなのだろうか。
さて次なる「メサジェスキスMessagesquisse・独奏チェロと6つのチェロのための」(1976-77)。じつに7本の弦楽器、チェロが奏でる、コレクティヴな対話的インタープレイともいえる音の世界であり、その疾走のさまも魅力だった。
そして3曲目も世界初録音の「アンセム2(Anthemes2)・電子ヴァイオリンのための」(1997)。ソロヴァイオリンのパフォーマンスを電子音響編集担当オペレーターが手を加えてループ、その電子音響編集とビルトージティなヴァイオリンソロとの対話的演奏が作り出す倍加豊穣する音響世界の現出に斬新を覚える作品となっている。なんだか電子変調によるバーチャルな幻覚的音響世界のアーティフィッシャルな世界来臨といえる作品である。
先の「シュル・アンシーズSur Incises・3台のピアノ、3台のハープと3つの打楽器のための」とおなじく、ここでも小気味いいリズム、音列流動が美しく奏でられギャロップする爽快は、これまたピエール・ブーレーズである。
いいですねブーレーズ。まこと論理と流動する音列、その美、保守的革新の確固とした情熱、意志のひとブーレーズと括って、新作3作品を聴いてのこの稿擱えることとしよう。