yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

ジョン・ケージ、初期ピアノ作品集『ある風景のなかで・IN A LANDSCAPE』(1995)。静かにやってくるものにこそ真性があるのかもしれない。

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John Cage: Music for Marcel Duchamp (1947) / Juan Hidalgo, pianoforte preparato

             

最近、とみに初期ピアノ作品集がリリースされているように見受けられるジョンケージ。先日店頭にて、CD2枚のピアノ全作品集なるものがたったの1500円ほどで置かれていて、正直驚いた。斯くほどさように、はや現代の古典として受け入れられ始めたのだろうか。たぶんそうなのだろう。ブーレーズシュトックハウゼンの傑作とはいえ無調のピアノ作品より、確かに受け入れられやすいことは、イメージ 2その素朴(極端なまでに使用されている素材音数が少ない)極まりない単旋律のピアノを聴いていると納得できるというものである。以前、それも1年半前のブログで、≪簡素な居住まい、佇まいのケージの初期ピアノ作品集≫とタイトルして2枚組みの初期ピアノ作品集を取り上げ以下のように述べた≪このケージの2枚組みの初期ピアノ作品集「MUSIC FOR KEYBOARD 1935-1948」(1935年)ケージは1912年生まれであるから23歳の作品となる。「1934年から1937年まで南カルフォルニア大学でシェーンベルクに師事する。」とあるからA面2曲の<two pieces>(1935)<metamorphosis>(1938)はその頃の作品である。ケージといえばプリペアードピアノの打楽器的な作品があまりにも有名であるけれども、私はこの2枚組みのレコードの収録作品のなかでは、いっとう最初期のこのシンプルな音列技法による流れるようなみずみずしさの溢れる作品と、このレコードでは2枚目SIDE4の<SUITE FOR TOY PIANO>(1948)と<DREAM>(1948)が好みである。TOYPIANOはもちろん和音などという楽音にはあって当たり前の要素がその機構ゆえか省かれている。このようなシンプルさに心惹かれる人はきっと多いのではと察する。それほど穏やかに心落ち着かせるものが確かにある。<music for marcel Duchamp>(1947)の東洋的な響きのシンプルな世界。<prelude for meditation>(1944)のモートンフェルドマンはここに精神的同類を嗅ぎ取ったのではと思えるような静謐さをたたえた世界。こうしたシンプルさの極みにのちのケージの革新者の姿が浮かびでてきようとは興味深いものであり、ケージはたぶん過剰な歴史の重みのそぎ落としの修練としてこの時期を雌伏していたのだろうか。ひとりぽつねんとがらんとしたピアノがあるだけの簡素極まる部屋で、この最終収録曲<DREAM>(1948)を作曲弾奏していたように思える。まことに簡素な居住まい、佇まい、なにごとかのはじまりとはかくあるのだろうか。静かにやってくるものにこそ真性があるのかもしれない。≫まさに革命前の静かさである。斯く≪静かにやってくるものにこそ真性があるのかもしれない。≫と肯かせるピュアーな作品ばかりである。今回取り上げるCD『ある風景のなかで・IN A LANDSCAPE』(1995)には、未聴の作品が目に留まったので買ったのだけれど、他の収録曲はすでに耳にしたものばかりで躊躇した。ま、中古CDであり半額ということと、リリース年代も95年という、私がレコード蒐集を断念した85年あたりよりも10年も、のちの音源ということで、趣味ではないけれど聴き比べの意図もあって手にした。おおむねロマンティックな優しさに満ちた、サティーを思わすような演奏になっている。メロウな感じ。これは武満徹の作品演奏なんかにもみられることで、最新のものであればあるほど柔らかいトーン、ロマンティックな響きになっているように私には聴こえる。どんなものだろう。さて、当の購入動機となった本CD中、唯一未聴の「スーベニア」は、実は初期の作品ではなく1983年のものでオルガンによるパフォーマンスのもの。革命家の貌が幾分か覗くとはいえ、しかしトーンは変わらない。シンプルであることで心は慰撫される。中世的シンプルな教会音楽の風情である。オルガンだから、だけではない。この「スーベニア」は彼の、音楽史に残る傑作と私も思っている「弦楽四重奏」のもつ相同の余韻でもあるだろう。しかも、禅(鈴木大拙)に傾倒し、日本のみならず東洋文化(インド、中国)への共感などもあってか、私たちにとってはその作品が奏でる余情は深く心に染入るものであるといえるだろうか。<ながら>でのバックグラウンドミュージックに最適の、ココロ安まり慰撫される音楽でありパフォーマンスということで、聴いて損しない、いや、いいアルバムと言っておこう。いつものYOUTUBE貼付け動画に、このCDのピアニスト・スティーヴン・ドゥルーリStephen Druryによる「スーベニアsouvenir」にしようと思ったけれど、プリペアドピアノ作品の「マルセル・デュシャンのための音楽」(1947)にした。≪ちなみに、「マルセル・デュシャンのための音楽」は、ダダイストハンス・リヒターが監督した映画<金で買える夢>のなかのデュシャンのシークエンス――円形のパターンが緩やかに回転し続けるだけの、非常に催眠的な映像――のための音楽として書かれたものである。≫(解説・近藤譲)ということでもあり、まさにその映像と、そのためにケージが作曲した作品をともに愉しめるということで、こちらを貼り付けた。「スーベニア」が気になる方はぜひYOUTUBEで視聴してください。

1. In a Landscape
2. Music for Marcel Duchamp
3. Souvenir
4. A Valentine out of Season
5. Suite for Toy Piano
6. Bacchanale
7. Prelude for Meditation
8. Dream