yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

スティーヴ・ライヒ『ミュージック・フォー・ア・ラージ・アンサンブル』(1980)。フェーズシフトのシンプルな反復の面白さから、音色的にもその豊饒化豊麗化を顕著にみせるラージアンサンブル作品。

イメージ 1


イメージ 2


Music for a Large Ensemble - Steve Reich (sound only no image)

   

【・・・最後に大岡昇平のことばを引用する。《人間の存在の根源的なひとつの要素として、子供が繰り返しを喜ぶということがある。同じことをしているんです。それは一種の遊びでもあるけれど、われわれの身体条件の中にあるわけですよ。ところが、生活の条件が繰り返しにあるとはゲーテがすでに言っている。まったくゲーテというやつは、たいていのことは言ってしまっているようですね。》飽きるほどの繰り返しにも意義はある】

イメージ 3くり返しの音楽を繰り返す。寒いシャレだ。今日はミニマルミュージックの大御所の一角スティーヴ・ライヒSteve Reich(1936 - )の登場。じつはこの音楽家の音盤未だいくらかあり、本来年代順に取り上げた方がいいのだろうけれど。というのもこの単純なパターンのくり返しの音楽の発祥から発展進化が年を追ってスケールが大きくなり音色的にもその豊饒化豊麗化を顕著にみせるからなのだが。ま、気儘な音楽ブログということに甘えて、目にとまったアルバムからということにする。とは言うものの、私が所有している85年央までのアルバムの中では、いちばん愉しく聴けるアルバムではないかと思える。タイトルは『ミュージック・フォー・ア・ラージ・アンサンブルmusic for a large ensemble』(1980)。このアルバムにはきわめてシンプルな1967年の初期の作品「ヴァイオリン・フェーズviolin phase」も入っており、それとの比較でミニマルミュージック・反復音楽の構造と変化のさま、それとスケールアップしての多人数編成ゆえの、それらの音色の豊饒化が実感できる趣向となっている。こうしたこともあっていいアルバムとして推薦できる仕上がりになっている。オスティナート(ostinato)という精神の高揚、催眠効果をもつ音楽技法は特段のものではなく、極ふつうに使われている技法であることはご承知のとおり。ただこの単純なパターン反復のみで最初から最後まで突っ切って徹底した音楽を形作ったのは、このスティーヴ・ライヒを嚆矢とするといってもいいのだろう。
この反復音楽の出生のそもそものきっかけはテープレコーダーの持つ機能からであり、すなわち≪徐々にフェーズしていくパターンを作るためにサンプリングしたテープ・ループ≫(WIKIPEDIA)手法だった。それ(「come out」)は、明瞭なパターンが重なり合って徐々に音が不明瞭になってゆくという、その変化のさまが新鮮であった。このように電子機器の機能が出生のきっかけだったのだ。しかし、それに加えて≪やがてライヒは、ドラミングの研究のためにガーナを訪れるようになり、1970年にはガーナ大学アフリカ研究所でドラミングを集中して学んだ。また、ライヒは1973年から1974年にかけてシアトルでバリ島のガムランの研究も行った。≫(WIKIPEDIA)とあるように、民族音楽の持つ生命力をリズム研究から摂取し、シンプルさに変化を加味、そのことでくり返しの変化の妙、音色の多様性と変化生成のダイナミズムを獲得して、音楽そのものが豊饒化していったのだ。≪『ドラミング』以降、ライヒは自分自身が先駆者であった"フェイズ・シフティング"の技法から離れ、より複雑な楽曲を書き始める。彼は他の音のオーグメンテーション(あるフレーズやメロディの一部の音符を一時的に増幅させ、繰り返したりすること)のようなプロセスを用いる方へ移行する。≫(WIKIPEDIA)まさにこの説明の時期の結実をしめす作品群がこのアルバムに聴けるのだ。≪ライヒの音楽は底にガメランやバリ島の音楽への共感が流れているためか、執拗なまでの小さなモチーフや同じリズムのくり返しがみられる。それを退屈と感じるか生命の躍動、活力のある人間の躍動とみるかは哲学の問題である。したがって、ライヒの音楽を理論やたんなる手法と受けとってしまっては、その西欧的なものの解釈となり、彼の音楽の生命は消えてしまう。彼の音楽はちょうどバリ島の素朴な民衆の生活そのもののように、それは人間の生活そのものであり、その単純に繰り返されるシンプルなサウンドの進行のなかにほのかに進行するメロディや音の変化は退屈なバリ島の日常生活に起こる変化みたいなものだ。そのバカバカしいほどの単純さとくり返しがスティーヴ・ライヒの音楽のひらき直った面と面白さがある。≫(解説・岩浪洋三)



収録曲――
1.Music for a Large Ensemble
2.Violin Phase
3.Octet

'come out' steve reich, early works.