yuki-midorinomoriの日記

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ん?シベリウスの弦楽四重奏?『弦楽四重奏曲全集』。全4曲。瑞々しく清冽がみなぎっていて、かつ豊かな弦楽の響き。構成的で<古謡>抒情的豊麗な響きはのちの交響曲作家を予感させる。

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Sibelius, Jean - String Quartet In D Minor ( Voces Intimae ), Op 56

            

イメージ 2ん?シベリウス(ジャン・シベリウスJean Sibelius, 1865 - 1957)の弦楽四重奏?といった小さな驚きが、今回のCD『弦楽四重奏曲全集』を取上げるきっかけだった。NHK・FMのなんの放送だったか今思い出せないけれど、そこで耳にして印象深くした弦楽四重奏が曲目紹介でシベリウスと告げられたのだった。それは、たまたま仕事中(めったにそのような場でラジオなど聴かないが)に何気なく耳に入った程度の聴き方だったのだけれど。これこそめぐり合わせというものなのだろう。その時のつぶやきが先の「ん?シベリウス弦楽四重奏?」だったのだ。ということで、さっそくネットでリクエストした。毎度、図書館より借り受けたものの紹介で気がひけるのだけれど。ところで、作曲家である以上、いや音楽史に残るようなすぐれた作曲家であり、それに≪20世紀最大の交響曲の作曲家の一人≫と言われているほどの作曲家が弦楽四重奏を手がけていないことなどまずありえないだろうから、作品が存在していてもなんら不思議でもないはずなのだが。記憶にないから、キチッとそれなりに聴いたのはたぶんはじめてだったはずだ。その放送で流れていたのは『ニ短調(親愛の声)op.56』(1909年)だった。なんでも、手がけた弦楽四重奏曲 全4曲のうちの最後の作品ということだ。没年が1957年という長命だったから、生涯の半ばで、この弦楽四重奏形式からは遠ざかったということになる。ただ今回借り受けた弦楽四重奏曲全集4作品の中で、印象深くした当の熟成練達の筆による最終作品の『ニ短調(親愛の声)op.56』より遡ること凡そ20年の、作曲家25歳の若き日の作品「変ロ長調 op.4」(1890年)のなんと伸びやかで、美しい作品だこと。いい作品だ。≪フィンランド古謡のようなひなびた叙情を発散させるメロディー≫(CD解説・吉松隆)を、浮き立つような心で瑞々しく歌い上げる豊かな弦楽の響きには清冽がみなぎっていて、とっても心地いい。心洗われる清々しさといってもいいだろうか。ということもあって、こちらの方が聴く機会を得てかえって興味深く感じ入ったことだった。まるでブラームスのように豊麗な響きでの構成的に充実した音色提示は、交響曲作家としてのその後を予感させる見事さだ。弩シロウトがいうのもなんだけれど構成・展開力が地に着いている。確かということなのだろう。それは、初期のといってもわずか4曲のうちのそれなのだけれど、20歳の時の「変ホ長調」(1885年)でも聴くことができるのだった。弦楽四重奏曲という音楽形式は書法上においても作曲家の肉声、内面の姿に近い表出形式といえるのだろうか。私にはそのように思える。≪姉のマリアがピアノを弾き、シベリウス自身がヴァイオリン、弟のクリスチャンがチェロを弾くという音楽一家≫を生育環境とするシベリウスは≪当初は法律を学ぶべく一般大学に入学するのだが、音楽への音楽への道をあきらめきれずにヘルシンキの音楽院に進む。しかしその時も、作曲家ではなくヴァイオリニストを目指しての転向。つまりシベリウスは最初からオーケストラに心酔して音楽を始めたわけではなく、友人たちと組んで弦楽四重奏ピアノ三重奏・五重奏の演奏を楽しみ、そのために新作を書くという極めてインティメート(親愛)な発想から彼の作曲家歴を始めているのである。事実、初期の作品リストを見ると、16歳から24歳までの間に弦楽四重奏あるいは三重奏曲の編成のもの5曲、ピアノが加わる三重奏から五重奏曲の編成(歌の伴奏にトリオが加わるものもある)のもの8曲が書かれていて、そのほとんどが作曲者自ら第2ヴァイオリンを弾いて初演されている。彼はベートーヴェン以来最大の弦楽四重奏曲作曲家になる可能性も充分あったのである。≫(同上、CD解説・吉松隆)なるほどのシベリウス弦楽四重奏作品だった。



弦楽四重奏曲 全4曲、うち作品番号付きは2曲
変ホ長調(1885年)
イ短調(1889年)
変ロ長調 op.4(1890年)
ニ短調「親しき声」 op.56(1909年)




Andante Festivo by Jean Sibelius (String Quartet Version)