山下洋輔トリオ/大駱駝艦/ジェラルド大下『嵐』(1977, Frasco)より 1976 年 9 月 29 日、日本青年館にて録音
しょうじき言いまして、
暗黒舞踏なるものには、感心した覚えがない。その謳いである、おどろおどろしさが、ピンとこないのだった。見るからに!といった、見えすぎたおどろおどろしさで、何ナノこれといった印象以上ではなかった。もう見るからに異形で暗黒をほのめかす、ようするにヒネリがなく、直接的すぎるのだった。だがしかし、この舞踏家、
麿赤児率いる
大駱駝艦の公演
「嵐」の劇伴という形での共演を収録したアルバムが今日取り上げる
山下洋輔トリオ(
山下洋輔、
坂田明、小山彰太)プラス、ジェラルド大下(tsほか)による2枚組み(約80分)ライヴ音盤『嵐』(1976)。ヨーロッパツアーでの
山下洋輔トリオの大ブレークの後、ドラムスの、
森山威男が抜け、入れ替わり小山彰太加入しての、直後の
山下洋輔トリオのパフォーマンスと思われる。これが意外におもしろかった。というのも、純然たるジャズコンボパフォーマンスのそれではなく、じっさいに劇伴のライヴであったことが、目の前で繰り広げられる舞踏に触発されてのインスピレーションのゆえか、より白熱したトリオ演奏を招いていることだった。これはまったくすばらしい
山下洋輔トリオだ。こんなにいいとは発見だった。いままで何を聴いていたのだろう。2枚組みと謂うそのボリュームと、かたや
暗黒舞踏と言うことで、まじめに聴いていなかったようだ。再度言おう、このアルバムの
山下洋輔トリオはすばらしい!。大ブレイクしたヨーロッパツアー後の最もすぐれた山下トリオのパワフルな白熱の疾走と閃光を堪能することができる。世界に羽ばたく「
キアズマ CHIASMA」「
クレイ CLAY」も傑作だけれど、これに『嵐』も加えるべきだとここに言い募ってこの稿閉じよう。山下ファンならこれは絶対に聴き逃すべきではない。月の砂漠で始まり、月の砂漠で終わる。泣かせます。痺れます。ウウーンさすが!何度でも言おうマッタクすばらしい。ちなみに≪
学園闘争真っ只中
バリケードで封鎖された早稲田大隈講堂にて、前衛舞踏家、
麿赤児プロダクションによって製作された≫のが、一時期幻の名盤として垂涎の的であったと聞く「
DANCING古事記」(1969)だったことを付け加えておこう。