yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

アルバート・アイラー『NUITS DE LA FONDATION MAEGHT』(1970)。死の直前のヨーロッパ・フランス・ライヴ。土の匂いふんぷんのトラディショナル・フリー。

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Albert Ayler - Nuits De La Fondation Maeght 1970 - 05 - The truth is marching in

           

 秩序など無意味だ、破壊へ、混乱へ。・・・「無疵な魂がどこにあろう」・・・若さはあまりに、酷すぎる。≫(中上健次
十八の歳に上京したのだが、その東京に着いた次の日に電車に乗って出かけた町の中で入ったモダンジャズ茶店がいわば私の運命を狂わせた。その日以来私はそのモダンジャズという音楽にやみつきになり、毎日くる日もくる日も新宿へ出かけた。電車賃がない時は延々と歩いた。歩きながらそのうち物を考える癖がついて、小説家になったとも思うし、新宿のそのモダンジャズ茶店に集まってくる女の子らの注目を魅くために詩まがいのものを書きそれが昂じて小説を書きはじめたとも思う。いや、毎日新宿をほっつき歩いた五年間ろくな事をしなかったから小説家になった。 (中上健次「夢の力・青春の新宿」北洋社より)
イメージ 2破壊せよ、とアイラーは言った」とは「枯木灘」の名作で燦然と文学史に名を刻んだ作家・中上健次(1946 - 1992)の印象深いことばとしてあまりにも有名だ。やるせなく鬱屈した青春をジャズに入り浸り、焦燥と煩悶にのたうち、若き生に疵を切り刻んで屈託していた心に、天啓のごとくやって来た想念、激情のことばなのだろう。

「ビルディングの地下にある、小さな青春のふきだまり。そこにはハイミナールに毒され、精液の臭いのする若者たちが集まってきて、ダールの絵のような健康的な夢想を食事する。枯木の上で百舌が鳴くようにトランペットがうたい、ドラムが響く。俺たちは死んでいる。牙はピグミーの酋長にささげられ、俺たちは死んでいる。ドラムは何億光年もの昔のおおらかさを讃える。マンモスが原野をのしあるく時代は良かった。壁にもたれながら、二人の名をほった。ベースが壁ごしにじんじん血液を送ってくる。」(「十八歳、海へ・JAZZ」より)

イメージ 3まさしく、政治の季節、ある青春の、ある一群の手負いの若人、自意識のごくありふれた風景、そして音連れだった。

破壊せよ、とアイラーは言った」。

と言うことで、登場するは先日に引きつづきアルバート・アイラーのアルバム。不明の早過ぎる死のために実質上のラストレコーディングとなってしまったヨーロッパ・フランスでの二枚組みライブアルバム。万雷の拍手称賛の聞こえるアルバムだ。国内盤宣伝帯には「不世出の天才アイラーが死の直前に吹き込んだジャズ史に輝く名盤!満員の聴衆に深い感銘を与える、鬼気迫る入神のプレイ!!」とある。71年度ACCディスク大賞、ジャズ・アカデミー・グランプり受賞。それに我が国スイング・ジャーナル主催第5回(1971年度)ジャズディスク大賞・銀賞受賞という華々しさだ。それ相当の出来であるのは間違いのないことなのだろう。それはともかく、ここでのアイラーのジャズは革新のフリージャズというよりはトラディショナルな親しみやすいジャズの再提示、そのフリー展開といった受けとり方のほうが正解なのかも知れない。身構えて聴く必要のない愉しむべきフリー・トラディショナルと言っておこうか。ただ私には、こうした賛辞を否定するわけではないけれど、パフォーマンスとしては、先日の「グリニッチ・ヴィレッジのアルバート・アイラー」の方がはるかに、その清新の意気とパッション、ビビッドな熱さにおいてすぐれていることを言い募ってこの稿擱くことにしよう。



ALBERT AYLER『NUITS DE LA FONDATION MAEGHT』(1970)

イメージ 4July 27, 1970 St. Paul de Vence, France

1. In Heart Only (5:10)
2. Spirits (15:06)
3. Holy Family (11:43)
4. Spirits Rejoice (7:23)
5. Truth Is Marching In (8:13)
6. Universal Message (8:31)
7. Spiritual Reunion (7:55)
8. Music Is The Healing Force Of The Universe (10:07)

(Track 8 by Mary Parks. The rest by Albert Ayler.)

Albert Ayler (tenor saxophone)
Call Cobbs (piano)
Steve Tintweiss (bass)
Allen Blairman (drums)
Mary Maria (Parks) (vocals [track 8 only])