堤剛のチェロによる『チェロをめぐる日本の響き』。
一柳慧の世界 Part6
堤剛
『チェロをめぐる日本の響き』か。なるほどだ。この楽器は生理的に自然な感じでよく唄う。人は話し、唄う。古来より連綿と為してきた意識的自然としての行為といえよう。それらの起源が奈辺にあるかは隠されて在るものとしてズーッと問われるべき謎で在りつづけるのだろう。だからこそ、人とは分からなさを存在根拠に抱く無根拠な寄る辺ない無底存在だということなのだ。「はじめに言葉ありき」。よくまあこれだけの言語があり、世に歌があるもんだと誰しもが思う。たしかに音楽をもたぬ人間社会は存在しない。それゆえに、そこに歴史の時間の積層、民族(俗)性が刻印されていると感じるのはなんら不合理でもないだろう。その情緒、余情を旋律楽器のチェロが思う存分に現代に垂心降ろし掬い上げてきた旋律を歌い上げたのが今日のアルバム『チェロをめぐる日本の響き』というわけなのだ。収録された5作品すべて力作揃いで、さすが邦人作品演奏を使命の如くするチェロの堤剛は<日本の響き>を余韻深くうたいあげて聴き応えがある。とりわけ、タイトルに引き摺られてではないけれど松村禎三作曲の「祈祷歌~無伴奏チェロのための」は、無伴奏ゆえ、しみじみ奥深く泣かせます。
本CDも図書館でのネット借受のもの。
『チェロをめぐる日本の響き』