ヨシ・ワダ『ジ・アポインテッド・クラウド』(1987)。壮大なノイズ、ドローン、その混沌の荘厳といっておこうか。みごとです。安らけくノイズの混沌に身をさらし、身をあずける我が心の放心の静謐。
THE APPOINTED CLOUD SCORE
≪80ものオルガンパイプ、吊るされた巨大な鉄板、サイレンやスチーム管ゴング・・・・。サウンド・アーティスト、ヨシ・ワダ(和田義正)のサウンド・インスタレーション、『ジ・アポインテッド・クラウドTHE APPOINTED CLOUD』(1987)を見た人は、驚きを禁じ得ない。この作品はいったいどうなっているんだ?≫(1987年プログラムより)会場に設置された種々の音を奏でる道具・モノ(ジャンク素材)達のサウンド・インスタレーション。それもコンピュータプログラミングにより自動制御された音のつくり出す狂騒的とも言える音響世界は、その場に延々と通奏する持続音の瞑想性・永遠性の効果もあってか、現世超越的宗教性、荘厳ささえ感じさせる壮大をコラボレイトする。通奏を担うパイプオルガンの素材のもつ趣き、その天上的響きの特長のなせる技であるのかもしれない。また、もうひとつの素材である、わが笙のごときを響かすバグパイプの持続音がもたらす現世的もの哀しさの余情ということであるのかもしれない。これらの途切れることのないドローン=持続音の仮想的永遠性、そのもたらす瞑想性こそを私自身は普段から、アンビバレントに魅入られつつも忌々しく、そは曲者と思っているのだけれど・・・。まるでアルコール飲料のもたらす酩酊状態という心的境域を即効的にもたらすのだ。極端に言えばドローン=持続音さえ背景に通奏し流しておけば瞑想的音楽の一丁上がりといった秘薬、秘法といえないでもないということだ。といいつつも、ほぼ一時間以上にわたってこうしたドローンの秘薬と騒雑な轟音のアマルガムなコンピュータ制御によるサウンドコラボレーションを四方八方全方位的に浴びているとノイズの異相といえる神々しさ、荘厳すらが心の襞に押し寄せてくるのだ。地響き立てるパイプオルガンの極低音のなか金属板の打ち鳴らす音がまるで鎮魂の響きのごとくココロに揺さぶりをかけてくる。壮大なノイズ、ドローンその混沌の荘厳といっておこうか。みごとです。安らけくノイズの混沌に身をさらし、身をあずける我が心の放心の静謐。
「ザーとたゅたうラジオ・ノイズに長いこと聞き入っていると、いつしか自分もノイズと一体になってしまう。さらに長いことノイズのただ中に身をさらしていると、ノイズ総体がことばを放ち始める。なつかしい天上音楽のようなこともある。ノイズが一次元あがって「このまま音」から「そのまま音」へ変わるのか。」(『雑音に関するヒポテーゼの試み』松岡正剛<遊>1008(1979)より)
ヨシ・ワダ(和田義正)のプロフィール――
その頃彼は、パイプを材料とし垂直に造作したハンドメイドの管楽器を作り始めた。これらの楽器は、シンセサイザーを伴ったアンサンブルに組み入れられるようになった。1979年から80年、彼は一連のより大きな自作バグパイプを組み立てた。後に主にバグパイプとその演奏者、パーカッションのための記譜された作品を書くようになった。