yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

『武満徹全集3 映画音楽1』。先週に引き続きのCD10枚の愉楽。「君も知っているでしょう。ぼくはジャズが大好きだ」。初期のころの何とジャズ音楽の多いことか。

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     ひとつの夢を無数に紡いでいく、映画は記憶の鏡だとも謂えよう。 (武満徹

White Morning 1965 Soundtrack:ピアノ・八木正生(やぎ まさお、1932 - 1991)

            

谷川俊太郎――彼が病気になって入院中に書いていた日記の中に「希望を捨てない」って言うのがあって、僕はショックでしたね。あの年になって、こういうことが言えるのか、と(笑)。僕なんか、どうしてもシニカルになっちゃうけれども、武満はそういうシニシズムみたいのが、ぜんぜんなかったのね。ある意味ですごくナイーヴだったんですね。そういうものが音楽に力を与えるんですね。音楽って、たぶんそういうものなんですね。

坂本龍一――そう、シニカルなものがなかなかつくれないんですね(笑)。

谷川――彼が若いころに言った言葉が、すごく印象に残っているんだけど、「夫婦喧嘩をしているときには、楽譜を1つも書けない」って(笑)。僕は、それで感動して、「俺なんか夫婦喧嘩しているときは、仕事しやすい」なんて言っちゃったんだけど。音楽が性格そのものなんだなあと思いましたね。そういう意味では、武満はある意味、基本的に純粋な魂を持っている人だな、と思って。

坂本――そこが武満さんの大好きなところです。その純度っていうか、強度っていうか、そういうことだと思うんです。それだけあっても音楽は作れませんけど、それがないと伝わらないのでしょう。・・・・

ほぼ一週間前≪『武満徹全集4映画音楽2』なんとCD11枚セット。この音の河に身をゆだね身を晒す快感。これはすばらしい体験であること間違いない。≫とタイトルし投稿したばかり。CD11枚セットという大部ゆえなのかどうか分からないがタイミングよく借りれた。その勢いで、1956年の「狂った果実」(中平康)にはじまり1969年の「心中天網島」(篠田正浩)等々までの武満映画音楽が収められた『武満徹全集3 映画音楽1』を予約したところ、これまた先ほどと同じ理由でかすぐに借受することができた。これもCD10枚に、およそ300頁の詳細な映画解説共々その音楽内容のことどもが語られている大部なもの。勿論と言っては失礼至極なのだけれど、ナガラで聴き通した。すでに所蔵アルバムで聴き知っているとはいえ、映画音楽史上の傑作「怪談」(1965・小林正樹)や、「心中天網島」(1969・篠田正浩)、そのほか、「切腹」(1962・小林正樹)、「砂の女」(1964・勅使河原宏), 「暗殺」(1964・篠田正浩)、「四谷怪談」(1965・豊田四郎), 「紀ノ川」(1966・中村登), 「他人の顔」(1966・勅使河原宏)などなど目くるめく劇音の数々。ナガラではあったけれどもう堪能の限り、至福の時間だった。ミュージック・コンクレートの実験的試み、あるいは伝統邦楽器への余人の及ばぬ間(ま)と音の絶妙な漁どり。感嘆おくあたわずの時空の深みの現成。一音々に込められたそれら音の息づかい。武満にとって映画音楽はまさしく音響開発、実験果敢の願ってもない場だったのだろう。それにしても何という、イメージ 2美しく哀切なメロディに満ちていることか。映画というものが大衆性を持っての芸術でもあればこそのそれは証示といえるのだろう。それとともに作曲家の本来性はここに在るのではないかとさえ思わしめるのだ。受苦的存在としての現存在の本源性(負い目、哀しさ・・・)に達しているといえないか。そのようなことはともかく、初期のころの何とジャズ音楽の多いことか。これは戦後のアメリカナイズされた時代的な社会世相の背景もあるのだろうけれど、武満本人も【「最近、ぼくは専門外のジャズに夢中になって、自分でもあきれるほど深くその世界に足を踏み入れました。君も知っているでしょう。ぼくはジャズが大好きだ」(「林光君へ」雑誌「SAC」1960年3月号)とジャズへの愛情を表明している。】(武満徹全集3 映画音楽1・冊子より)とある。(敗戦後の占領米軍基地内での就業経験の所為もあるのだろう。)それらのジャズを黛敏郎(食えない無名時代、この黛のアシスタントをして、たつきとしていたそうだ。それは、生活苦にあった才能ある武満への援助であり配慮であったそうだけれど。)がすばらしいと讃していたそうだ。斯くこれがまたすばらしいのだ。それにつけても、何と多くの様式での武満音楽の河だこと。メロウな音あり、センチメントな歌あり、ハードなコンクレート、電子音あり、気韻の伝統邦楽ありで、まことに愉しいCD10枚の千変万化なマラソン鑑賞の川くだりだった。


武満徹全集3 映画音楽1
イメージ 3第3巻 狂った果実(1956・中平康), 朱と緑(1956・中村登), つゆのあとさき(1956・中村登), 土砂降り(1957・中村登)、噛みつかれた顔役(1959・中村登), ホゼー・トレス(記録映画)(1959・勅使河原宏), 春を待つ人々(1959・中村登), 危険旅行(1959・中村登), いたづら(1959・中村登), 乾いた湖(1960・篠田正浩), もず(1961・渋谷実), 不良少年(1961・羽仁進), 斑女(1961・中村登), 熱海ブルース(1962・ドナルド・リチー) , 充たされた生活(1962・羽仁進), からみ合い(1962・小林正樹), おとし穴(1962・勅使河原宏), 切腹(1962・小林正樹)、涙を、獅子のたて髪に(1962・篠田正浩), 裸体(1962・成沢昌成), 古都(1963・中村登), 太平洋ひとりぼっち(1963・市川崑) , 彼女と彼(1963・羽仁進), 素晴らしい悪女(1963・恩地日出夫), 白と黒(1963・堀川弘道), 砂の女(1964・勅使河原宏), 暗殺(1964・篠田正浩), 乾いた花(1964・篠田正浩), 二十一歳の父(1964・中村登), 白い朝(1964・勅使河原宏), 日本脱出(1964・吉田喜重), 女体(1964・恩地日出夫), 自動車泥棒(1964・和田嘉訓), 美しさと哀しみと(1965・篠田正浩), 怪談(1965・小林正樹)、ブワナ・トシの歌(1965・羽仁進), 最後の審判(1965・堀川弘道), 異聞猿飛佐助(1965・篠田正浩), けものみち(1965・須川栄三), ホゼー・トレスⅡ(記録映画)(1965・勅使河原宏)、四谷怪談(1965・豊田四郎), 紀ノ川(1966・中村登) , 他人の顔(1966・勅使河原宏), 処刑の島(1966・篠田正浩), あこがれ(1966・恩地日出夫) , あかね雲(1967・篠田正浩) , 伊豆の踊子(1967・恩地日出夫) , 乱れ雲(1967・成瀬巳喜男), めぐりあい(1968・恩地日出夫), 燃えつきた地図(1968・勅使河原宏), 日本の青春(1968・小林正樹), 心中天網島(1969・篠田正浩), 弾痕(1969・森谷司郎)、イヴ・クラインモノクロームの画家(1963・瀬木慎一)、京(1968・市川崑)、上意討ち―拝領妻始末(1967・小林正樹)】




Toru Takemitsu – Rikyu