yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

『高橋悠治1、糸の歯車~箏とオーケストラのための(1990)ほか』。この風趣。奇を衒う以上の悠治ジャパネスクはひじょうに面白い。これぞ現代の邦楽。悠治ジャパネスクなニッポンの叙情。

イメージ 1

SIEBEN ROSEN HAT EIN STRAUCH/Yuji Takahashi

            
    音はわずかなものをあらわすだけだ。そのまわりの静寂の空間は深い。(高橋悠治
いつも、夕食後の風呂にて、湯船に浸かりながらその日の夕刊を読む。ビショビショ、ゴワゴワになった新聞への家族の顰蹙指弾の声なんのその、その悪癖止まず・・・。で、そのなかに「移ろい、進んでいく音楽 それが人生」とタイトルされた、草分け的存在の女性ジャズピアニスト・穐吉敏子のインタビュー記事があった。

【「私の解釈では、日本の音楽は横に流れていく芸術です。これに対して、ジャズのスイングというのは明らかに縦の動きの感覚です。・・・」】

とあった。う~ん、たぶんそうなのだろう。リズムより線的なメロディだ。きょう投稿する『高橋悠治1 -糸の歯車, 慈善病院の白い病室で私が (ヴァージョンA&C), 七つのバラがやぶにさく, 他 / 新日本フィルハーモニー交響楽団, 沢井忠男(箏), 他』を聴いているとそう思う。緩やかに漂うがごとく流れてゆく。

まさしく、高橋悠治の独特の相対化されたニッポン情緒。悠治ジャパネスク。独創と言っていいのだろうか。お定まりのパターン化された音の世界は、決してやってこない。しかしこのノスタルジックな風情を醸す、浮遊する楽の音の不思議なこと。飄々と悠然として流れてゆく。そうです、対立することなく時の流れに身をまかせ、供に≪横に流れていく≫。和と洋の相対(立)、二項対立なぞ問題解決にも何もならない・・・と言うかのように。

以下は、通販サイトより借引用した、作曲家・高橋悠治自身の作品解説。

≪【CD1】
…作曲したての作品はどれもすばらしく思えるが、しばらくたつとそれほどでもなくなる。ここに収めた曲は何年か後の今でもまだ聴けるように思う。これらの曲が、名人芸を見せるというよりは演奏者たちの創造性をしめす意味での演奏の喜びのために創られたからかもしれない。…
無伴奏ヴァイオリンのための『七つのバラがやぶにさく』(1979)は長い序奏につづく即興で、インドのラーガの器楽的提示と似た音楽形式を取っている。…『慈善病院の白い病室で私が』(1989)はブレヒトの最後の詩に想を得た。私のいないあとのツグミの歌をもことごとくよろこぶことが(長谷川四郎・訳)という詩行から録音したツグミの歌を2オクターブ下げて採譜することを思いついた。またイザイの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第5番『暁』が引用されている。…『糸の歯車』は沢井箏曲院の十周年コンサートのために書かれた。スコアはない。オーケストラ・メンバーは数個のパターンときっかけ表を渡されている。指揮者が楽器の出入りの合図をする。箏の譜は伝統的な記譜法によっている。最後の部分は古典箏曲『六段』を斜めに読んだもの。

【CD2】
「翳り」の使用法
…聴くときは、部屋あるいは人の出入りする空間に
音量を小さめにして流しておく。
CD装置のコントロールによって、あるトラックまたは
全体をREPEATにしておけば、一日中鳴っているだろう。
七つのトラックはSHUFFLEによって、
ランダムな順序で聴くこともできる。―高橋悠治―≫

本2枚組みのCD2の「翳り~コンピュータ音楽演奏システムのために」(1993)は以前≪高橋悠治『リアルタイム5・翳り』(1993)。コンピュータのランダム選択による、不確定、偶然の順序組み合わせによっての延々1時間にわたって訥々と鳴らされる電子音楽作品。生臭い人間の構成意志の突き放し。≫とタイトルし投稿しているので、きょうはそちらに全面的に譲ろう。

それにしても、この風趣。奇を衒う以上の悠治ジャパネスクはひじょうに面白い。これぞ現代の邦楽。悠治ジャパネスクなニッポンの叙情。




高橋悠治1』

CD-1
1.糸の歯車~箏とオーケストラのための THREAD COG WHEELS for koto and orchestra(1990)※
2.慈善病院の白い病室で私が (ヴァージョンA&C) ALS ICH IM WEISSEN KRANKENZIMMER DER CHARITE version A&C(1989)
3.七つのバラがやぶにさく~独奏ヴァイオリンのための SIEBEN ROSEN HAT EIN STRAUCH fur violine solo(1979)

CD-2
1.翳り~コンピュータ音楽演奏システムのために(1993)

【演奏】
CD-1
高橋悠治(指揮)※、沢井忠男(箏)※、新日本PO※、数住岸子(Vn)、吉原すみれ(スティール・ドラム)
CD-2
高橋悠治
【録音】
1992年1月28日(CD1)、1992年5月24日※


コンピューター音楽、邦楽・雅楽など伝統楽器のための作曲、著作……。現代音楽の最前線を疾駆してきた天才も9月(2008年―引用者注)に70歳になる。芸術家の加齢とは? 無礼を承知で聞くと、「円熟しない」「喪失感を知る」を力説した。

 「思想家のサイードは、アドルノの論稿を挙げつつ、ベートーベンの晩年様式が円熟による統合化を目指していないと説いている。喪失感は、沈黙の役割を知ることにつながる。作品の隠れた部分、沈黙で縁取られた世界こそ、作品の重要な部分だと思う」(asahicomより)