yuki-midorinomoriの日記

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『邦楽名曲セレクション20~古曲』。「諸流の中でもっともしめやか」(永井荷風)。その浄瑠璃「宮薗節」ほかを聴く。

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河東節/助六所縁江戸桜

              

助六所縁(ゆかりの)江戸桜(河東節・かとうぶし)

春霞立てるや何処(いずこ)み吉野の、山口三浦うらうらと、うら若草や
初花に、和らぐ土手を誰(た)が言うて、日本めでたき国の名の、豊葦原や吉原に、
根ごして植えし江戸桜、匂う夕べの風につれ、鐘は上野か浅草に、その名を伝う花川戸。
思い染めたる五所(いつところ)、紋日待つの日のよすがさえ、子供が便り待合の、
辻うら茶屋に濡れて寝る、雨の箕輪の冴え返る。
この鉢巻は過ぎし頃、由縁(ゆかり)の筋の紫も、君が許しの色見えて、
移り変わらで常磐木の、松の刷毛先透き額、堤八町風誘う、目当ての柳、花の雪、
傘に積もりし山間(やまあい)は、富士と筑波をかざし草、草に音せぬ塗鼻緒(ぬりばなお)、一つ印籠、一つ前、
急くな急きゃるな、さよえ、浮世はナ車、さよえ、
廻る日並みの約束に、籬(まがき)へ立ちて訪れも、果ては口舌かありふれた、
手管に落ちて睦言と、なりふり床(ゆか)し、君ゆかし。
神(しん)ぞ命を揚巻(あげまき)の、これ助六が前渡り、風情なりける次第なり。

「日本音楽を勉強するためには、仏教音楽や能、さらに雅楽などを勉強するのもいいと思いますけれども、ほんとうに日本人の心をつかもうという場合には、やはり三味線音楽を勉強するのが一番手っ取り早い方法ではないかと思います。」(小泉文夫・日本の音楽・平凡社

ネット図書館で検索中「古曲」という字が見えた。「古曲」?というわけで、そのアルバム詳細をみてみたら、江戸浄瑠璃長唄河東節(かとうぶし)・一中節(いっちゅうぶし)・宮薗節(みやぞのぶし)・荻江節(おぎえ-ぶし)の代表作収録とあった。
それなら・・・ということで借り受けた。というのも、だいぶ前のことだけれど、いつもの如くたまたまFM放送で出くわし、こりゃいいわと記憶に残った浄瑠璃があったのだ。以下だった。

【邦楽のひととき -宮薗節-

「鳥辺山」                         
                      (27分40秒)
                     (浄瑠璃)宮薗千碌
                    (浄瑠璃)宮薗千碌司
                    (三味線)宮薗千加寿
                   (三味線)宮薗千佳寿弥】

宮薗節?というわけだった。ところが動画にも無く、ネット図書館所蔵リストにも無くと気にはなっていたのだった。その宮薗節は京都を発祥とするというだけあってなのかどうか、他の浄瑠璃とはすこし趣、風情がちがって、華麗、劇的といったものではなく、しっとりとして、雅(みやび)といった印象なのだった。そこがなんとも・・・と印象されたのだった。
なんでも、この宮薗節を≪永井荷風は「諸流の中でもっともしめやか」と絶賛している。≫のだそうだ。

宮薗節 鳥辺山


宮薗節・鳥辺山(とりべやま)

一人来て、二人連れ立つ極楽の、清水寺の鐘の声。
早や初夜(しょや)も過ぎ、四つも告げ、九つ心も、恋路の闇にくれは鳥、
あやなき空や浮橋に、つながる縁や縫之助、つい仇惚れも誠となりて、
ほんの女夫(みょうと)になりたいと、思う思いはままならぬ。
今はこの身に愛想もこそも、

尽きた浮世や、いざ鳥辺野の、女肌には白無垢や、上に紫(むらさき)藤の紋、
中着緋紗綾(なかぎひざや)に黒濡子(くろじゅす)の帯、年齢(とし)は十七初花の、雨に焦がるる立姿。男も肌は白小袖(しろこそで)にて、黒き倫子(りんず)に色浅黄裏(いろあさぎ)、二十一期(にじゅういちご)の色盛りをば、恋という字に身を捨(すて)小舟(すておぶね)、どこへ取り付く島とてもなし。

きくたびたびにつらかりし、父母(ちちはは)の事を思い出し、あとの嘆きを思いやり、ここから去(い)んで呉竹(くれたけ)の、伏し沈みたる袖の露。
浮橋涙もろともに、父(とと)さんや母(かか)さんの、あるはお前も同じ事。
その親々(おやおや)に苦(く)をかける。不孝者には誰(たれ)がした。
合惚(あいぼ)れという仲人(なこうど)や、枕の咎(とが)じゃないかいな。
恋は心の外とやら、夕べも内(うち)の花車(かしゃ)さんが、
私(わし)に意見を真実(しんじつ)の、色という字があればこそ、好(す)かぬ勤めの
辛抱(しんぼう)も、好いた殿御(とのご)へ心意気。
いとし可愛いが定(じょう)ならば、五度逢うものを三度逢い、
二度を一度の逢う瀬には、親(おや)、親方(おやかた)の機嫌もよく、
色で身をうつ事もなく、世間に多い心中も、金(かね)と不孝で名を流す、
色で死ぬるはないぞとよ。恋は思いのはじめにて、盛りが憎い迎い駕龍、
その後朝(きぬぎぬ)や朝顔の、夕顔にまで分け隔(へだ)て、
辛気(しんき)な苦界(くがい)ままならぬ、悲しい事や辛(つら)い事、
生きる死ぬるの手詰(てず)めにも、必ず必ず若気(わかぎ)を出し、
短気な心持ちゃんなやと、重ね井筒の上越した、粋な意見も上の空。
お前に迷う心から、面白い気できいて居(い)た。
親御様へも世の義理も、私(わし)からおこるこのしだら、
堪忍(かんにん)してとばかりにて、縋(すが)り付いて泣き居たる。

思い切らしゃれ、もう泣かしゃんな。私(わし)は泣かねど、それこなさんの、
いいや、そなたの、いや、こなたのと、顔と顔を見合わせて、
一度にわっと嘆くにぞ、一足づつに消えて行く、終(つい)に
この野の春降る雪や、折からに、早や寺々の鐘も撞(つ)き止(や)み、
夜は白々(しらじら)と、鳥辺山にぞ着きにける。



宮薗千之
三味線 宮薗千愛

〔解説〕
宮薗節の代表曲であると同時に、数多い三味線音楽の中でも屈指の名作とい
えよう。鳥辺山を舞台にしたおまん源五兵衛の心中事件があり、俗謡に唄わ
れ、お染半九郎で歌舞伎化され、地歌に行われていたものが集大成された。
直接には義太夫節太平記忠臣講釈」(明治三年)の第八「道行人目の重縫」
なので、人物は浮橋縫之助。塩谷判官の弟石堂縫之助が傾城浮橋に溺れてい
るので、祇園の茶屋で二人をおだてて、鳥辺山心中の道行をやらせて遊ぶと
いう場面。心中におもむく二人の衣裳を描写するのに二上りを使い、さらに
「思い切らしゃれ」以下を二上りにしたのが巧みな構成。もちろん「浮橋涙
もろともに」以下のクドキは絶唱。

      以上同梱解説書より
ところで、http://homepage2.nifty.com/fukaya-shouten/kokyoku.html古曲」ご案内サイトに以下の文章があったので勝手ながら引用させていただこう。

古曲の魅力
人が音楽を選ぶ様に、音楽も人を選びますから、こういった人は古曲が好きになります。

■音楽美に対する感性が鋭い人。
■邦楽に何となく物足りなさや違和感を感じていた人。
■純音楽で和の世界が知りたい人。
室内楽好きのクラシックファン。
■誇り有る少数派という立ち位置の好きな人。

つまり、古曲に惹かれるあなたは選ばれた感性の持主なのです。】

(ヌケヌケ)よく言いますが、さて、いかがなものでしょうか。





『邦楽名曲セレクション20~古曲
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1937083 アルバム試聴

収録曲
1. 鐘の岬(荻江節
[演奏](VO )萩江あや
(VO )萩江せつ
(VO )萩江寿々雛
2. 傾城浅間嶽(一中節)
[演奏]都一いき
都一つや
都一千恵
3. 助六所縁江戸桜(河東節)
[演奏]山彦ちか子
山彦綾子
山彦節子
4. 鳥辺山(宮薗節)
[演奏]宮薗千之



宮薗節/歌の中山 四世宮薗千寿 宮薗千妍寿(桃山晴衣)




参考リンク――


http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/edc8/deao/kato/index.html (河東節)『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』

http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/edc8/deao/icchu/index.html (一中節)『松の羽衣(まつのはごろも)』

http://japan.japo-net.or.jp/mame/miyazonobushi/ 邦楽豆知識一覧<日本伝統音楽振興財団>