リゲティ『弦楽四重奏曲第1番「夜の変容」|第2番他』。音楽院の最終試験のために書かれたもの・・・「弦楽四重奏のためのアンダンテとアレグレット」(1950)ナイーブで伸びやかな感性が窺われる愛すべき佳品
Ligeti - Andante and Allegretto [for string quartet] [1950] 1. Andante cantabile
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/60036909.html ジェルジ・リゲティ『弦楽四重奏曲第二番』(1968)、アール・ブラウン『弦楽四重奏曲』(1965)ほか。
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/38276064.html ジェルジ・リゲティの堅固な弦の響き『弦楽四重奏曲第一番』(1953)。微細に音色生成変化搖動する『弦楽四重奏曲第二番』(1968)
とタイトルして投稿しているのだけれど、ネット図書館の検索リスト内の曲目詳細に、いまだ聴いた事のないものが目にとまったので借り受け鑑賞した。このアルバムのメインになる『弦楽四重奏曲第一番』(1953)および『弦楽四重奏曲第二番』(1968)に関しては先の既投稿記事より引用再掲しておこう。
【・・・当時のハンガリーの社会主義体制の下では新ウイーン楽派(十二音、無調)の音楽は禁じられていたそうである。そのせいだけではないだろうけれど≪彼は、バルトークの影響を受けつつ、彼もまた民謡の編曲や、民謡を取り入れた作品を発表する中で革新的な作風を模索していた≫。その亡命する前の作品が『弦楽四重奏曲第一番』である。ひじょうによく出来た作品で、ヨーロッパ近代の音楽の伝統、歴史の連続性、積層する文化的背景の強さ、をまざまざと見せ付ける堅固な構造に裏打ちされた引き締まった弦の響きにはうなってしまった。また背景に民俗の音楽的精神があるせいもあってか親しみを持つ旋律も垣間見せ、バルトークの弦楽四重奏をこのんで聴かれている向きには好感を持って受け入れられることと思われる。私にはバルトークよりも、より洗練された響きを持った堅固をここに聴く。このおよそ15年後に作曲されたのが『弦楽四重奏曲第二番』(1968)である。ここでは亡命で西側に渡り、カールハインツ・シュトックハウゼン、ヘルベルト・アイメルトなどの知遇をえ、ケルンでの電子音楽スタジオにおいて電子音楽の研鑽期間となる。それは『アトモスフェール』で一躍前衛の一角を占めることとなったトーンクラスターによる音響創造、作品提示の礎ともなる諸技法音楽観考究の雌伏のときでもあった。そうしたトーンクラスターからあのリゲティに特徴的な未分化の淡い境目を揺らぎうごめく微分的微細な、柔らかさをも感じさせる音響、音色変化へと関心が移っていった時代の作品である。複層的に微細に変化してゆく揺らぐ弦の響きにはまるで生成未分化の、そのあわいに立ち会う風情でもある。微細に変化生成搖動する音色、響きに耳そばだてるその緊張は素晴らしくまた新鮮な音楽体験でもある。】
ところで、このアルバム中、今回の鑑賞のお目当ての数曲のなかで、もっともおもしろく聴けたのが「弦楽四重奏のためのアンダンテとアレグレット」(1950)だった。これは≪「リスト音楽院の最終試験のために書かれたもの・・・」≫(同梱解説書)とあるように、1956年のハンガリー動乱直後の西側(ウィーン)への亡命前の作品(「弦楽四重奏曲第一番」も同様、しかし初演は亡命後)で、ひじょうに古典的な様式をもつ作品ではあるけれど、親しみのもてる愛すべき作品だ。作曲家本人も言っているように「社会主義リアリズム」の規範に安易に乗っかって書かれたものではないとことわりを入れているが、まさにそのとおりで、おもねるなぞといった構えの微塵もなく、ナイーブで伸びやかな感性が窺われる佳品といえようか。作品詳細の了解ないままの、最初音だけを聴いていた時、てっきりメロディー回帰の最晩年の作と思った(練れている)ほどだった。音楽への愛、穏やかさがあるのだった。
ジェルジ・リゲティ、関連投稿記事――
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http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/45430110.html 狂気じみた緊張の世界。うねり流動するクラスターの音世界に存在認識の変革を聞くジェルジ・リゲティ(1923-2006)の『アヴァンチュール』(1962-63)ほか。
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/38756815.html 生成のゆらぎと清冽な精神の緊張、メロディアスなまでに美しい音のうねりジェルジ・リゲティ『Chamber Concerto for 13instrumentalists』(1969-70)ほか
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/38625831.html 生成と消滅にあわく揺らぎ流動するロマンティシズム。ジェルジ・リゲティの『Doppel Konzert』(1972)『San Francisco Polyphony』(1973-74)ほか