yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

息づく音色、遅延重層するポリフォニックな響きも心地よい松永通温(1927)『葦と枝と風と……』(1970)ほか

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静寂の中での雨だれのようにマリンバの同一音型の反復からはじまる『葦と枝と風と……』(1970)リコーダーの持続する長音に吹き抜ける自然と通底した風としての呼吸、奏者の<気>の吹きかけとも同定される掛け声、意味不明な呪文のごとき鋭く切り込む声など、べつだん激するというのではないけれどなにやら役(えん)の行者的呪術世界が漂う風情の曲である。リコーダーの横笛的な日本的情緒性を感じさせるパフォーマンスのうえに鉦との効果的な照応もあって、いっそうその印象が募る。
2曲目は『カウンター・パフォーマンスⅡ』(1974)。ピアノ、マリンバ、ホルン、チェロと≪正弦波発生器を加えて、奏者は計五名になるが、それぞれの独立した演奏は、電子的手段によって加工され、ミックス、またはトータルされて一つの音場を構成してゆく。したがってエレクトロニックテクノロジーを担当するエンジニアは、ある意味から演出者でもあり、スコアの冒頭にその基本的なアイデアが提出されている。客席の四隅にスピーカーが配置され、ステージにピアノ、客席右側にチェロ、後方にマリンバが位置し、それぞれマイクを通じて中央のオペレーションデスクで操作される。≫(上野晃)
いわゆるシュトックハウゼンなどがライヴで試みていた空間音楽というコンセプトにもとづいての、したがって、いっしゅライヴエレクトロニクパフォーマンスともいえるだろうか。ライヴ録音された音源や、コンタクトマイクなどでストレートに拾われたアコースティック音源などが遅延操作され、また正弦波と共にリング変調器に掛けられるなど、さまざまなテクニカルな操作が加えられる。
構成にホルンがありチェロがあるように、その主調はやわらかく透明といえるだろうか。たぶんライヴではその空間柔らかく、息づく音色、遅延重層するポリフォニックな響きに心地よく包まれていただろう。ピアノとマリンバの打鍵音がほどよく引き締めてもおり、散漫にならずバランスすぐれて音響場、起ちもし、拡がりもしといった印象である。
『翠氷』(1968)尺八、箏、ヴィブラフォンという構成。しかし日本的情緒べったりでないところがよく、清冽とも言える印象である。たぶん素材が作曲家の感性にひきよせられ生きているのだろう。ヴィブラフォンのゆらぐ響きが情緒にべったりと流されるのをふせいで好感できる。それが作曲家のすぐれたところなのだろう。
最後4曲目は打楽器アンサンブルのための『サウンド・ファーストSOUND FIRST!』(1976)。ISCM(国際現代音楽協会)の入選作ということである。インプロヴィゼーションも部分的に採りいれた作品だそうだが、響きをコントロールする感性の良質がだれることのない音響空間を形成しえているのだろうか。常に音、響きにコンポジションの原基がある作曲家なのだろう。
松永通温(みちはる)(1927)。大阪外事専門学校(大阪外国語大学の前身)インド科卒業後、教職に従事しながら独習して、大阪教育大学特設音楽課程楽理・作曲専攻に編入学、修了。20世紀音楽研究所の現代音楽祭で知ることとなった入野義朗に作曲を師事。またその後、その研究所所員であった松下真一(当初硬質な音色と構成で華々しく登場し、世界で最もよく演奏される作曲家といわれ、後半生は仏教を題材に作品をのこした数学・物理学者で作曲者。拙ブログでも先日取り上げた。)に私淑したということである。中学教諭を務めつつ本格的に作曲活動を始めたのは40歳をすぎる1968年頃からのよし。


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