yuki-midorinomoriの日記

イメージを揺さぶり脳をマッサージする音楽

孤独で美しく、やさしくもの悲しげなジョンケージの『Sonata and Interludes』(1946-48)『A Book of Music』(1944)

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なんとも孤独で美しく、やさしくもの悲しげな響きをもっていることだろう。まことにピュアーである。1940年代後半までのこうしたピアノ作品のシンプルさの魅力は今までも拙ブログでも述べてきたところである。
二枚組みのアルバムの見開きになっている左ページにはピアノ弦にプリペアド(=準備されたピアノ)される十何種類かのネジくぎ、ピン、木片、ゴム片等の数十にも及ぶ詳細な設定指示が全面に記されている。こうしたことで、当然弾かれたピアノ弦からはさまざまな音色、響きの変化がもたらされ、本来の美しい澄んだピアノ音でなく、響きを押し殺した打楽器のような音となる。
そうした不思議な打楽器的音と操作されていない本来の音のシンプルに交わって作り出すケージ独創のピアノ作品は、エリック・サティーのピアノ作品を聴いたときの簡素さに慰撫される印象をもつ。ただ前にも感じ、言ったことだけれどケージには憂鬱、倦さといったような病的な印象がしない。清々しささえ印象する。アメリカ的楽天性などと言い切ってしまうには、彼の、後の革命的なコンセプトのダダぶりを掴みきれないのではとも思える。この純な清粋への志向にこそケージののちがあったのだろうか。宗教的とさえ思える響きを漂わせる部分もある。
≪1946年2月から3年がかりで作曲された『ソナタとインタールード』は、ほぼ70分を要する大作である。アナンダ・K・コワラスラミの著作から見出したインドの美の伝統にある「九つの永遠の感情」すなわち、「勇気」「情欲」「驚歓」「悲哀」「不安」「怒り」「醜悪さ」それに「平静心」を音楽的に表現しようとした作品だとケージは述べている。・・・≫このころはまだケージは音楽の表現ということを疑ってはいなかったのだろうか。
≪全体は16曲のソナタと、4曲のインタールード(間奏曲)からできている。最初の8曲と第12曲及び最後の4曲のソナタは、AABBの各部の反復を含む明快な2部形式をとっており、通作形式の第一インタールード(第4ソナタのあと)、第二インタールード(第8ソナタの後)と構造を異にしている。この構造上の対照は、後半の2つのインタールードとその間に挟まれた第9から第11曲にいたるソナタでは関係が逆転する。この3曲のソナタは、それぞれ前奏、間奏、後奏を含んで構造上のプロポーションをくずしているのである≫(石田一志)。
この石田の解説文はこのアルバムからのものではなくジョン・ティルベリーJohn Tilbury演奏の邦盤アルバムから拝借したものである。なんとまた、このアルバムの二台のプリペアドピアノのための『A Book of Music』(1944)を演奏しているマーロ・アジェミアンMaro Ajemian の演奏しているアメリカCRI盤もわがレコード棚にあるではないか。楽しみといえば楽しみではあるけれど。
このマーロ・アジェミアンがこのケージの大作、プリペアドピアノのための『Sonata and Interludes』(1946-48)の初演者ということである。1949年のカーネギーホールでの全曲に亘る初演では≪ケージの作品としては類がない好評を得ることができた。ヴァージルトムソンは当時「陽気で、多彩で、活気があり、音も形式も、ドメニコ・スカルラッティハープシコードのための練習曲を思わせる」と書いている。≫(石田一志)ということである。
私には陽気というより、このブログ文先頭の印象が正直なところである。『Sonata and Interludes』はヨシュア・ピアースJoshua Pierceのピアノ。『A Book of Music』のほうは、ヨシュアピ・アースとマーロ・アジェミアンの二人。どちらも比較的抑制された印象がする。ガムラン音楽の響きを引き合いに出されることの多いケージのプリペアドピアノだけれど、もちろんそれに間違いはないのだが、アジェミアンという名前から察するにこの初演者はイラン系のピアニストようにも思える。
イランには繊細な音を奏でるピアノの原型ともいえるサントゥールの響きがあるが、そうした生来の耳をもってのプリペアドの響きの抑制繊細なのかもしれない。そうしたことが<インドの美の伝統にある「九つの永遠の感情」すなわち、「勇気」「情欲」「驚歓」「悲哀」「不安」「怒り」「醜悪さ」それに「平静心」を音楽的に表現しようとした作品だ≫といったことに相応しい、抑制された美しい響きをもたらしているのかもしれない。


ジョン・ケージ「初期ピアノ作品集」関連マイブログ――
http://blogs.yahoo.co.jp/tdhdf661/27277892.html